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東日本大震災からの復興需要が一段落し、人口減少による市場縮小や人手不足など、東北地域の建設業界は大きな転換期を迎えています。
こうした状況の中、東北6県の地場有力建設会社7社と大手銀行のみずほ銀行が手を組み、新会社「東北アライアンス建設株式会社」を設立することが発表されました。
地域を代表する建設企業同士が県境を越えて連携し、新たな事業モデルに挑戦するこの試みは、業界内外で大きな注目を集めています。
この記事では、みずほ銀行と東北6県建設7社がが設立した「東北アライアンス建設」の設立の狙い・経緯、参画企業の概要、そして今後の展望や建設業界への影響について、建設業界専門の転職支援会社「施工王」の視点から詳しく分析します。
東北アライアンス建設とは何か? 設立の概要
東北アライアンス建設株式会社は、福島県から青森県まで東北6県を代表する7つの建設会社とみずほ銀行が共同出資して2025年6月30日付で設立する新会社です。
本社は福島県郡山市に置かれ、社長には福島の陰山建設社長・陰山正弘氏が就任します。
資本金は総額1.4億円(発行株式14,000株)で、みずほ銀行も出資比率3.57%を占めています。
まずは各出資企業の協力のもと下請け的な形で実績を積み、将来的には新会社単独で受注できる体制構築を目指しています。
東北6県・建設7社+みずほ銀行の共同出資
東北アライアンス建設は、東北6県それぞれを代表する地域密着の建設会社7社と、メガバンクのみずほ銀行が共同で立ち上げる合弁会社です。
参加する7社はいずれも各県で実績と信頼を持つ中堅建設企業であり、地域ゼネコン(地域密着型のゼネコン)として地域のインフラ整備や建築に長年貢献してきた企業ばかりです。
その7社の顔ぶれは次のとおりです。
- 福島県:陰山建設株式会社(本社:郡山市)
福島県を代表する総合建設会社。社長の陰山正弘氏が新会社「東北アライアンス建設」の初代代表取締役に就任予定。自社開発の建設DXアプリを手掛けるなどデジタル技術の活用に積極的で、経産省のDX認定事業者にも福島県内建設業で初めて認定される先進企業。 - 秋田県:大森建設株式会社(本社:能代市)
秋田県の地場ゼネコンで、大森三四郎社長が率いる企業。公共土木工事や建築施工の実績が豊富で、地域インフラに強みを持つ。 - 山形県:幸栄建設株式会社(本社:東根市)
山形県を代表する建設会社で、佐藤信勝氏が代表取締役。地元での建築・土木の幅広い施工実績を誇り、地域社会の発展に寄与している。 - 岩手県:株式会社タカヤ(本社:盛岡市)
岩手県の老舗建設会社で、細屋伸央社長が率いる。建築からリニューアル工事まで手掛け、特に商業施設や医療施設の建築で定評がある。 - 宮城県:株式会社深松組(本社:仙台市青葉区)
宮城県の有力ゼネコン。深松努社長の下、官民問わず数多くの大型建築・土木工事を手掛けてきた実績があり、仙台圏の発展を支えてきた。 - 青森県:株式会社藤本建設(本社:青森市)
青森県の建設会社で、長谷川学氏が代表。青森市を中心に公共工事や民間建築を数多く施工し、地域に根差した経営を展開する。 - 青森県:株式会社NICHIUN(本社:青森市)
青森県の特殊工事会社。藤本宏涼社長が率い、10~1200トン吊りの大型クレーンや重量物輸送用トレーラーを多数保有し、風力発電設備工事などにも携わる重機・輸送のスペシャリスト企業です。大手ゼネコンとの取引実績も多く、重機施工や特殊工事のノウハウでグループ全体を支えます。
以上のように各社それぞれ強みを持ち、建築工事や土木工事、DX推進、重機・特殊工事など分野は多岐にわたります。
7社合計の完成工事高(売上高)は直近期で約570億円、従業員数は7社合計で786人に上ります。
この規模感は、単一の地方建設会社としては相当なものであり、各社が連携することで相乗効果が期待できます。
みずほ銀行も含めた8者の共同出資により、新会社の資本金は1.4億円(7,000万円資本金+7,000万円資本準備金)とされました。
出資比率の内訳は公表されていませんが、みずほ銀行は法律上の制約もあり約3.57%(14,000株中500株)の少額出資に留めつつ、主要株主として7社を支える立場です。
新会社設立のニュースが示すもの
東北アライアンス建設の設立発表は、地域の建設業界にとって画期的なニュースとなりました。
「地場建設業が県境を越えて手を組む」というこれまでにない試みであり、東北地方の経済界・建設業界から高い関心が寄せられています。
この新会社が注目されるポイントとして、以下の点が挙げられます。
- 地域建設業の新たなビジネスモデル:
東北6県の有力企業が連携し、一つの会社を共同で運営するスタイルは、人口減少や市場縮小に直面する地方建設業の課題解決策として注目されています。単独の企業では難しい広域的な取り組みを共同で行うことで、持続的成長を図るモデルケースになるとの期待が寄せられています。 - 官民連携・地域金融機関の関与:
新会社には都市銀行であるみずほ銀行が参画している点も大きな特徴です。地域の民間企業連合に金融機関が加わり、資金面・信用面で下支えする枠組みは非常に珍しく、地方創生や産業支援の観点でも評価できます。みずほ銀行のようなメガバンクが特定地域の産業振興を目的に地元企業と新会社を設立するケースは過去に例が少なく、産業界と金融界の新たな連携モデルとも言えるでしょう。 - 建設業界全体への波及効果:
東北アライアンス建設が成功すれば、他地域でも類似の地域企業連合の動きが波及する可能性があります。例えば北陸や四国、九州などでも、地場建設会社が競争力維持のため連携を模索する動きが出てくるかもしれません。そうした波及が起これば、日本全国の地方ゼネコンの在り方にも影響を与え、業界再編や協業の新潮流が生まれる可能性があります。
総じて、このニュースは単なる一企業の新設に留まらず、「地方建設業の未来像」を占ううえで重要な意味を持つ出来事といえるでしょう。
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設立の背景:東北の建設業界が直面する課題
新会社設立の背景には、東北地域の建設業界が抱える深刻な構造的課題があります。
震災復興需要の収束による受注減少や、人口減少に伴う市場規模の縮小、人材不足や技術継承の難しさなど、各社単独では解決が困難な問題が顕在化していました。
これらの課題に対し、県境を越えた企業連携で立ち向かうのが東北アライアンス建設設立の原動力となっています。
復興需要の一段落と市場縮小
2011年の東日本大震災以降、東北の建設業界は復興特需とも言える活況を経験しました。
被災地のインフラ復旧や住宅再建、大規模な防災事業などで一時的に旺盛だった建設需要も、震災から10年以上が経過した現在では落ち着きを見せています。
復興事業が一巡したことで、公共工事を中心に発注量が平常時の水準に戻りつつあり、特に被災3県(岩手・宮城・福島)ではピーク時に比べ建設投資額が減少傾向にあります。
さらに追い打ちをかけるのが、東北地域における人口減少と地域経済の縮小です。
東北6県の人口は年々減少を続け、高齢化も全国平均以上の速度で進行しています。
その結果、新規の住宅建設需要や民間投資案件も減少傾向となり、地域の建設マーケット規模そのものが縮小しているのです。
特に地方の中小建設企業にとっては、地元で確保できる仕事量が先細りし、経営を維持するハードルが上がってきています。
こうした市場環境の変化は建設業界の競争環境にも影響を与えました。
震災復興需要に沸いた時期には、人手や資材が不足するほどでしたが、需要減退後は逆に受注競争が激化し始めています。
限られた仕事を巡り、地場の建設会社同士だけでなく、首都圏の大手ゼネコンや他地域の業者も参入してくるケースもあり、一社だけでは太刀打ちしづらい状況が生じています。
市場縮小と競争激化の板挟みにより、各社とも将来への危機感を強めていました。
まとめると、東北の建設業界は「復興特需の終わり」と「地域経済縮小」という二大要因に直面し、仕事量の確保と経営の安定化が難しくなってきたのです。
そうした問題意識が、今回の東北アライアンス建設設立への動機の一つとなっています。
人材不足・技術継承の問題
市場環境の変化と並んで、人材面での課題も地域建設業者に重くのしかかっていました。
とりわけ深刻なのが技能労働者や現場監督の高齢化・人手不足の問題です。
東北地方に限らず建設業全体で若手入職者の減少が続いており、各社とも現場を担う人材の確保に苦戦しています。
ベテラン勢は定年退職期を迎えつつある一方で、若手の数が足りず、このままでは技術やノウハウの継承が途切れてしまう恐れも指摘されています。
特に地方の建設会社では、大都市に比べ人材獲得競争で不利な面がありました。
優秀な技術者や若手は都市部や大手企業に流出しやすく、地元出身者でも地場企業よりは東京や仙台の大手ゼネコンに就職したいと考えるケースも少なくありません。
その結果、各県の中堅建設会社は慢性的な人手不足に陥り、受注した工事をこなすにもギリギリの人員体制という例も見られます。
こうした人材・技術の課題に対し、企業の枠を超えた協力体制で臨もうというのが今回の新会社設立の背景にあります。
実際、新会社では各社から人員を出向させ、共同で人材育成を行ったり、ベテランの知見をグループ全体で活かす体制を整える方針です。
これにより若手社員に幅広い経験を積ませ、次世代の現場リーダーを育成するとともに、ベテランの技術伝承をスムーズに行う狙いがあります。
まとめると、東北アライアンス建設は「仕事(マーケット)の課題」と「人(人材・技術)の課題」という二つの大きな背景に直面した結果、生まれた連合体だと言えます。
新会社の狙いと役割: 広域連携で生み出す価値
東北アライアンス建設が目指すのは、「単独ではできないことを、みんなで実現する」ことです。
広域的なプロジェクト対応や建設業のDX推進、大規模災害への迅速対応など、従来は各社単独では困難だった取り組みに共同で挑みます。
新会社を通じて生まれる新たな価値創出が、東北地域全体の建設業の競争力強化と持続的成長につながることが期待されています。
広域プロジェクトへの対応とDX推進
東北アライアンス建設の設立目的の一つに、広域プロジェクトへの対応があります。
従来、県境をまたぐ大規模プロジェクト(例えば広域インフラ工事や複数県にまたがる再開発など)は、各社単体では対応しづらく、首都圏の大手ゼネコンに受注を奪われがちでした。
しかし7社が連携することで、東北全域をカバーするネットワークと人員・機材のプールが生まれ、大規模案件にも共同で取り組める体制が整います。
案件ごとに7社の強みを持ち寄り、コンソーシアムのような形でプロジェクトに参画することで、地元企業ならではのきめ細かなサービスと大手並みの総合力を両立させる狙いです。
特に民間の大型開発や国が主導する広域インフラ整備では、「東北アライアンス建設」として共同受注することも視野に入れています。
例えば物流ネットワーク構築や大規模工場の建設など、東北各地にまたがる案件であれば、新会社がハブとなり各県の出資企業が協働して施工を担う、といった形です。
これにより受注機会の拡大と売上増加が期待でき、地元に仕事と利益を還元できるメリットがあります。
もう一つの重要な狙いが、建設業のデジタルトランスフォーメーション (DX) 推進です。
7社の中には先述の陰山建設のようにDXに積極的に取り組んできた企業もあり、そのノウハウをグループ全体で共有することで、各社の生産性向上を図ります。
具体的には、施工管理のIT化や現場へのIoT機器導入、BIM/CIMの活用などを共同で進めていく計画です。
陰山建設が自社開発した現場管理アプリやドローン測量技術なども他社に展開し、DXのモデルケースとして新会社が先導する役割を担います。
みずほ銀行も、持つ広範なイノベーション企業とのネットワークを活かしてこのDX推進を支援します。
同銀行は業界問わずスタートアップ企業との協業実績が豊富で、新会社に対しても最新の建設テック (ConTech) やDXソリューションを紹介し、導入を後押しする考えです。
メガバンクならではの情報力・ネットワークカにより、地方の中堅企業ではアクセスしづらかった先端技術を取り入れることも可能になるでしょう。
これら広域対応力の強化とDX促進は、最終的に新会社と出資各社の競争力底上げにつながります。
広いエリアで仕事を取れるようになり、かつ効率よく施工できるようになれば、利益率の向上や社員の負担軽減にもつながります。
つまり、新会社は7社それぞれの「営業力拡大」と「生産性向上」のエンジンとして機能することが期待されているのです。
大規模災害への迅速対応・地域価値の共創
東北地方は地震や豪雨、豪雪など自然災害の多い地域でもあります。
新会社には、大規模災害発生時の迅速な対応力強化というミッションも課されています。
東日本大震災の際には被災地での復旧工事に各社バラバラに対応しましたが、今後同様の広域災害が起きた場合、東北アライアンス建設がハブとなって協力体制を組むことで、より迅速かつ効率的な復旧作業が可能になると考えられます。
具体的には、災害時には新会社の指揮のもとで物資・人材・重機を被災地へ迅速に投入するネットワークを構築します。
7社それぞれが持つ災害対応ノウハウを平時から共有し、緊急時には相互応援できるルール作りも進める計画です。
さらに新会社は、単なる災害対応に留まらず「新たな地域価値の創出」を掲げています。
これは7社が連携することで地域社会にもたらす付加価値を高めようという発想です。
例えば、今まで地元に仕事がなく他県へ出稼ぎに行っていた技術者が、新会社のプロジェクトで地元に留まって働けるようになるかもしれません。
また、7社の協業自体が地域経済に刺激を与え、新たな雇用を生む可能性もあります。
地方発のイノベーションも期待されます。
異なる社風・得意分野を持つ企業同士が化学反応を起こすことで、新しい工法の開発やサービスの創出など、単独では生まれなかったアイデアが芽吹くかもしれません。
実際、陰山社長は「各社が集結することで様々な化学反応を起こして成長したい」と意気込みを語り、異業種との協業も含め更なるアライアンスの可能性に言及しています。
建設業の枠を超えた企業とも積極的に連携し、新会社を「これまでにない新たな建設会社」に進化させるビジョンも示されています。
要するに、新会社の役割は「広域×協業」によって地域にもたらす価値を最大化することです。
広域的な取り組み、DX、人材育成、災害対応、新技術導入......これらを総合力で推進し、東北の地に新たな価値と安心を提供することが東北アライアンス建設の使命と言えるでしょう。
みずほ銀行の参画意義と支援内容
今回、都市銀行であるみずほ銀行がこのプロジェクトに深く関与している点も見逃せません。
みずほ銀行は少額ながら出資し、金融の専門性と広域ネットワークを提供することで新会社を後押しします。
信用力補完や経営ノウハウの提供、さらにDX推進や他業種との橋渡しなど、多方面から東北アライアンス建設を支援する立場です。
地方建設業の課題解決に金融機関がどう寄与するのか、その役割に注目が集まっています。
都市銀行が支援する理由:信用力・経営力の強化
みずほ銀行が東北アライアンス建設に参画する背景には、地域経済活性化への金融機関としての使命感とビジネスチャンスの両面があります。
まず第一に、地方の有力企業が連携して新たな事業を起こす動きを支援することは、金融機関にとって地域経済の底上げに繋がり、長期的に見て顧客基盤を守ることにつながります。
東北の建設業がこのまま衰退してしまえば、銀行にとっても貸出先が減り地域経済が縮小するリスクがあります。
そうした懸念から、みずほ銀行は自ら旗振り役となってこのプロジェクトを提案・支援したと報じられています。
具体的な支援内容として、まず信用力の補完が挙げられます。
大型プロジェクトの受注や新規設備投資には信用力(与信)が不可欠ですが、中堅企業単独では与信額に限度がありました。
みずほ銀行が株主かつメインバンクとして付くことで、新会社および出資各社の信用格付けは向上し、資金調達力が強化されます。
銀行ならではの資金提供(融資)はもちろん、補助金・助成金情報の提供やファイナンス面でのアドバイスも期待できます。
実際、同行はグループ内に地方創生や産業支援の専門部署を持ち、今回の出資も社内の「価値共創投資枠」を活用したとされています。
これは収益性だけでなく地域価値の創出を目的とした投資枠で、銀行としても社会貢献とビジネスの両立を図る位置づけです。
また、経営力強化の支援も重要です。
みずほ銀行は多くの大企業の成長を金融面からサポートしてきた経験があり、ガバナンス体制の整備や効率的な事業運営のノウハウを持っています。
新会社には各社から人材が集まりますが、そのマネジメントを円滑にする仕組みづくりにも銀行が助言するようです。
例えば、共同出資会社の運営に関するルール作成、コンプライアンス教育の共同実施、財務管理の高度化など、複数企業の協業だからこそ必要となる経営管理手法を提供します。
金融機関が関わることで、出資各社間の調整役(仲介役)としても機能し、「企業間の橋渡し」をする存在と位置付けられています。
加えて、みずほ銀行自体が東北6県すべてに店舗網を持つ唯一のメガバンクであり、その広域ネットワークは新会社の営業展開にも活かされます。
銀行の支店網や取引先紹介を通じて、新会社がこれまで繋がりのなかった企業・自治体ともコンタクトを取れるよう取り計らう考えです。
例えば、「東北アライアンス建設」として売り込みをかけたい企業(製造業の新工場計画など)があれば、みずほが間を取り持って商談の場を設けるといったことも可能でしょう。
都市銀行だからこその広い情報網と人脈が、新会社に新たなビジネス機会をもたらすかもしれません。
DX・イノベーションへの橋渡し役
もう一つ、みずほ銀行が強調しているのがイノベーション推進の橋渡しという役割です。
前述のように、みずほはメガバンクの中でもスタートアップ企業や異業種との協業に積極的で、「メガバンクで最もイノベーション企業とのインターフェースが強い」と自負するほどです。
この強みを活かし、新会社には最先端技術の導入や新規事業創出の面でも貢献する意向を示しています。
例えば、建設業界向けの新サービスを提供するテック系ベンチャー企業とのマッチングです。
みずほ銀行は日頃から様々なスタートアップと接点を持っており、その中には建設DXや働き方改革に資するソリューションを持つ企業もあります。
新会社および出資7社にヒアリングを行い、「こんな課題を解決したい」というニーズを集約した上で、適合しそうなベンチャーを紹介する、といった支援が考えられます。
実際、同行は独自のイノベーションネットワークを通じてDX推進のモデルケースとして新会社をサポートする方針です。
また、異業種連携についても銀行がハブになる可能性があります。
建設業界外の企業と組んで新たな事業を起こす際、銀行は中立的な立場で双方を結び付けやすい存在です。
例えば、IoTメーカーと建設会社の協業でスマート建機を開発するといったケースでも、銀行が調整役になればスムーズに話が進むことが期待できます。
陰山社長が示唆した「異業種連携も積極的に行う」というビジョンの実現にも、みずほ銀行のネットワークが一役買うでしょう。
さらに、みずほ銀行が参画していることで、行政や官公庁とのパイプも太くなります。
銀行は自治体や国交省などとも取引関係があり、地域インフラ政策の情報なども入手しやすい立場です。
例えば、東北地方で国の大型プロジェクトが計画される際、その情報をいち早くキャッチし新会社に共有するなど、ビジネスチャンスの創出にも繋げられるかもしれません。
このように、みずほ銀行は単なる出資者に留まらず、「新会社の成長アクセラレーター」としての役割を担おうとしています。
資金と信用の後ろ盾となりつつ、新しい技術や出会いを取り入れる触媒となる――これは地場企業同士だけでは成し得なかった付加価値です。
金融機関ならではの知見とネットワークを提供することで、東北アライアンス建設が地域建設業の未来を切り拓く存在となるよう、全面的にバックアップしているのです。
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今後の展望:単独受注から業界モデルケースへ
東北アライアンス建設は、設立がゴールではなくスタートです。
今後の展望としては、まずは出資各社の協力のもと実績を積み、新会社が単独で工事を受注できる力を付けることが当面の目標です。
その先には、地方建設業の新たなビジネスモデルの確立という大きなゴールが据えられています。
新会社単体受注へのロードマップ
東北アライアンス建設が掲げる最終目標は、「新会社単体で大型工事を受注できるゼネコンになること」です。
しかし設立当初からいきなり巨大プロジェクトを単独受注するわけではありません。
段階的なロードマップが想定されており、まずは各出資企業のバックアップのもとで実績を積むフェーズが始まります。
初期段階では、新会社は出資7社のジョイントベンチャー (JV)的な役割を果たします。
例えば、あるプロジェクトを受注する際、形式的にはリーダー企業(陰山建設など)が元請けとなり、新会社は共同企業体の一員や下請けとして参加する形です。
これにより新会社自身の施工実績やノウハウを蓄積し、対外的な信用も徐々に築いていきます。
具体的には、民間案件を念頭に下請的な立場で受注実績を積み上げる計画であると報じられています。
例えば商業施設の建設で新会社が現場管理を担う、公共工事で各社の技術者を新会社チームとして派遣するといった形が考えられます。
次のステップでは、新会社が元請けとなる案件に挑戦します。
まずは比較的中規模の工事から、単独受注にチャレンジするとみられます。
各社から社員の出向を受けて新会社のプロジェクトチームを編成し、官公庁や民間企業から直接受注するケースです。
この段階ではまだ出資各社の支援を受けつつではありますが、新会社の看板で工事を請け負うことで、一人立ちへの足がかりを作ります。
おそらく数年内にこうした試みをスタートさせ、成功事例を作ることで新会社のブランドを確立していくでしょう。
最終的に目指す姿は、東北アライアンス建設自体が一つの総合建設会社(ゼネコン)として認知され、東北全域や場合によっては全国区の大規模案件を単独受注できるようになることです。
具体的な目標時期は示されていませんが、10年程度の長期ビジョンである可能性があります。
7社がライバルではなく真のパートナーとして協調し続けられるかが、ロードマップ成功のカギを握ります。
地方建設業のモデルケースとしての期待
東北アライアンス建設には、一企業の成功だけでなく地方建設業界全体のモデルケースになることが期待されています。
人口減・市場縮小・人材難という構造問題を抱えるのは東北に限った話ではなく、日本全国の地方で共通する課題です。
そのため、この新会社の取り組みが奏功すれば、他地域でも「○○アライアンス建設」のような動きが出てくるかもしれません。
特に注目されるのは、企業間連携による課題解決という点です。
建設業界はこれまで縦割りで各社が独自に経営努力をしてきましたが、限界も見えてきました。
そこで今回のように横の連携で人材やノウハウを融通し合うモデルは、業界のパラダイムシフトになる可能性を秘めています。
例えば、地方の中小建設会社が単独ではDXに取り組めなくても、複数社でコストを出し合えば最新システムを導入できる、といった具合です。
同様に、大手に対抗できなかった地域工事も、合同会社を作ってまとめて受注するといった戦略が取れます。
東北アライアンス建設はまさにその先駆けであり、「広域連携+金融支援+DX推進」を組み合わせた独創的モデルとして全国から注視されています。
行政もこの動きを支援する可能性があります。
国土交通省は地域建設業の維持を重要政策に掲げており、企業間連携や経営基盤強化策に補助金を出す制度もあります。
東北アライアンス建設が成功例となれば、国交省や各県も後押しを強め、他地域での横展開を促すでしょう。
将来的には、地方の有力建設会社が広域連合体を組むことが標準的な戦略となり、「地域版スーパーゼネコン」が各地に誕生するかもしれません。
もっとも、新会社がモデルケースとして評価を得るには、きちんと成果を示すことが必要です。
数年後に実際に大型案件を地元企業連合で勝ち取ったとか、DXで生産性が飛躍的に向上した、若手技術者の定着率が上がった等の具体的な成果が出れば、説得力を持って広まっていくでしょう。
逆に言えば、成果が出なければただの絵空事に終わってしまいます。
その意味で、東北アライアンス建設の経営陣には重責がのしかかっています。
7社間の調整、銀行や行政との連携、収益確保と再投資――クリアすべき課題は多々ありますが、それを乗り越えてこそ地方建設業の未来を切り拓くモデルとなれるのです。
陰山社長も「共創による新たな地域価値の創出と持続的成長の実現」を掲げ、地方建設業の次代を担う意気込みを示しています。
持続可能な地域建設業のあり方を提示できれば、東北のみならず日本全体の建設業界への貢献も大きいでしょう。
業界への影響と建設技術者への示唆
地域ゼネコンの競争力強化と業界再編への波及
東北アライアンス建設の成功は、他の地域ゼネコンにも競争力強化のヒントを与えるでしょう。
地方の有力建設会社同士が手を組むことで、大手ゼネコンに対抗し得る規模と総合力を発揮できるという事例が示されれば、各地で同様の連携が模索される可能性があります。
これは必ずしも新会社設立という形に限らず、資本提携や業務提携、JV常設化など様々な形態が考えられますが、いずれにせよ「連合して戦う」という選択肢が現実味を帯びてくるはずです。
その結果、建設業界の構図にも変化が生じるかもしれません。
現在、大手5社(スーパーゼネコン)や準大手・中堅ゼネコンが全国市場を押さえ、地方では地域ゼネコンが細分化している状況です。
しかし今後、地方発の広域連合が台頭すれば、新たなカテゴリの施工体が誕生することになります。
例えば東北アライアンス建設が順調に成長し、仮に売上規模で準大手クラスに食い込んできれば、既存の序列にも影響を及ぼすでしょう。
各地に同様の連合体が出現すれば、大手 vs 地域連合という構図で競争や協調が行われる新時代が来るかもしれません。
業界再編の観点でも注目されます。
連合をきっかけに合併や統合が進む可能性も否定できません。
今回の7社はあくまで独立性を保ったままの協業ですが、将来的により強固な統合を選択する可能性もあります。
また、7社以外の周辺企業を取り込んでグループ拡大することも考えられます。
実際、陰山社長は建設以外の異業種とも連携を広げたい意向を示していますが、建設業界内でも例えば設備工事会社や測量会社など関連業種をグループ化することもあり得ます。
こうして緩やかな業界再編が進めば、地域全体でリソースを融通しあうエコシステムが形成され、非効率な重複投資の削減や技術力の底上げにも繋がるでしょう。
まとめ
改めてポイントを振り返ると、まず設立の背景には、震災復興需要の収束と人口減少による市場縮小、そして人材不足・技術継承といった構造的課題がありました。
こうした一社では解決困難な問題に対し、東北6県7社が広域連携という形で立ち向かう決断をしたことが、本プロジェクトの出発点です。
新会社の狙いは、広域プロジェクト対応力の強化や建設業DXの推進、大規模災害への備えといった複合的な価値創出にあります。
各社の強みを持ち寄り協力することで、単独では実現できなかったことを成し遂げ、地域経済に貢献しようというビジョンが示されています。
今後も東北アライアンス建設の動きに注目です。
有料職業紹介(許可番号:13-ユ-316606)の厚生労働大臣許可を受けている株式会社ゼネラルリンクキャリアが運営しています。