建設業ニュース

大和ハウス工業の蓄電所事業参入の背景・狙いと建設業界への影響

2025年8月、大手住宅メーカーの大和ハウス工業が、福岡県にある自社の九州工場敷地内で蓄電所(大規模蓄電池施設)の建設に着手し、蓄電池ビジネスに参入すると発表しました。

同社初の蓄電所となるこの施設は、太陽光発電など再生可能エネルギーの需給調整を目的としており、運転開始は2026年7月頃を予定しています。

建設業界大手によるエネルギー分野への新規参入ということで、本件は業界内でも大きな注目を集めています。

本記事では、大和ハウス工業が蓄電所事業に乗り出す背景や狙い、その詳細と建設業界にもたらす影響について解説します。

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再エネ時代に求められる蓄電所ビジネス

再生可能エネルギーの普及が進む中、大規模な蓄電池による電力の調整力が重要性を増しています。

再エネ電源の出力変動を吸収し安定供給を支える蓄電所ビジネスが注目されています。

再生可能エネルギー拡大と電力需給調整の課題

日本政府は「2050年カーボンニュートラル」を掲げ、再生可能エネルギーの導入拡大を推進しています。

しかし、天候によって発電量が大きく変動する再エネ電源では、発電が需要を上回る時間帯に余剰電力が発生し、逆に発電が落ち込む時には電力不足が起こります。

特に九州エリアでは太陽光発電の急増により晴天時の余剰電力が問題となっており、出力制御(発電抑制)が度々実施されています。

こうした需給ギャップを緩和する手段として蓄電池への期待が高まっており、実際に国内の系統用蓄電池市場は急成長しています。

一般社団法人日本電機工業会の統計によれば、2024年度の国内における系統用蓄電所向け蓄電池出荷容量は約8GWhと、10年前の約83倍に達しました。

このように大容量の蓄電システムは、再エネ普及に伴う電力の需給調整に欠かせないインフラとなりつつあります。

画像の説明

蓄電所(大規模蓄電池)の役割とメリット

蓄電所とは、電力系統に接続して充放電を行う大型蓄電池施設のことです。

電力需要に対して供給が余る時間帯には余剰電力を充電し、不足する時間帯には放電することで、電力の安定供給に貢献します。

この仕組みにより再生可能エネルギーの出力変動を平滑化し、停電リスクの低減や火力発電燃料の節約にもつながります。

また、蓄電所は電力系統の周波数調整や需給調整市場への電力提供などを通じ、新たな収益源を生み出すことも可能です。

電力需要ピーク時に放電した電力を市場で販売したり、需給バランス維持の対価を得たりするビジネスモデルが成立しつつあり、蓄電システムはエネルギー業界のみならず建設・設備業界にも新たなビジネスチャンスを提供しています。

大和ハウス工業が蓄電池ビジネスに参入する背景

住宅建設のトップ企業である大和ハウス工業が、脱炭素の潮流を受けエネルギー事業への取り組みを強化しています。

蓄電池ビジネス参入の背景には、再エネ拡大による社会的ニーズの高まりと新たな成長戦略の狙いがあります。

2050年カーボンニュートラルと企業の新戦略

政府目標である2050年のカーボンニュートラル実現に向け、企業各社が再生可能エネルギーや省エネ技術への投資を加速しています。

政府は2030年度に電源構成に占める再エネ比率を36~38%に引き上げる目標も掲げており、蓄電池の導入拡大はその達成にも不可欠とされています。

大和ハウス工業も例外ではなく、これまで自社施設の屋根や遊休地で太陽光発電所「DREAM Solar」を開発・運営し、発電事業者(IPP) や新電力 (PPS)としての顔も持っていました。

今回の蓄電所建設は、そうした再エネ発電ビジネスをさらに発展させる新戦略と言えます。

再生エネ由来の電力を蓄電し必要な時に放出することで、より安定的かつ高付加価値なエネルギーサービスを提供できるようになります。

また経済産業省の補助事業に採択されたことも追い風となり、初期導入のハードルを下げることで事業参入が実現しました。

住宅メーカーの強みを活かした蓄電事業への挑戦

大和ハウス工業がエネルギー分野に挑む上で注目すべきは、住宅メーカーとしての強みの活用です。

同社は全国各地で住宅や商業施設、工場などを建設してきた実績から、最適な立地選定や用地開発のノウハウを持っています。

今回の蓄電所建設地も、自社九州工場のテニスコート跡地という遊休スペースを活用しています。

このように自社資産や既存施設を有効活用できる点は、住宅メーカー出身企業ならではの利点です。

また、大和ハウス工業は設計・施工を自社で手掛けており、建設コストの抑制やノウハウ蓄積にもつながります。

蓄電池設備自体は新興企業であるパワーエックス社製の最新システムを採用しつつ、建設や運用の面では老舗建設企業としての知見を活かしている点が特徴です。

この事業への参入は、同社にとって住宅・建設業に次ぐ新たな成長の柱に育てる狙いがあると考えられます。

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福岡・鞍手「DREAM Storage Battery」プロジェクトの詳細

大和ハウス工業が福岡県鞍手町で着工した自社初の蓄電所 「DREAM Storage Battery 福岡鞍手系統用蓄電所」の概要を紹介します。

2025年着工・2026年稼働予定の大規模蓄電プロジェクトです。

9.8MWh蓄電所の規模・設備概要

福岡県鞍手町に建設予定の「DREAM Storage Battery 福岡鞍手系統用蓄電所」の完成イメージ。

同社九州工場のテニスコート跡地約530㎡を利用して設置される。

計画中の蓄電所は、出力1.9MW・蓄電容量9.8MWhという大規模なものです。

蓄電池ユニットは20フィートコンテナサイズのものが4台設置され、リン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)を採用しています。

蓄電容量9.8MWhは一般家庭約950世帯の1日分の消費電力量に相当する規模で、工場の跡地約530㎡(160坪)という比較的コンパクトな敷地に収められます。

設置場所が工場内ということもあり、高圧受電設備への接続や運用管理は自社の設備技術者が対応できるメリットがあります。

以下に本プロジェクトの概要を表にまとめます。

項目 内容
プロジェクト名 DREAM Storage Battery 福岡鞍手系統用蓄電所
所在地 福岡県鞍手郡鞍手町新延448-8 (大和ハウス工業 九州工場内)
敷地面積 約530㎡(160坪)
蓄電池メーカー 株式会社パワーエックス
蓄電システム規模 出力1.9MW/蓄電容量9.8MWh(定格)
蓄電コンテナ台数 4台 (リン酸鉄リチウムイオン電池)
工期 2025年8月18日~2026年7月(予定)
運転開始予定 2026年7月頃(予定)
採択補助事業 経産省「令和6年度再生可能エネルギー導入拡大・系統用蓄電池導入支援事業費補助金」

スケジュールと運用計画: 2026年稼働開始へ

工事は2025年8月18日に始まり、約11ヶ月の施工期間を経て2026年7月に完了予定です。

その後、電力会社による系統接続工事など必要な手続きを経て運転を開始します。

運用開始後は、この蓄電所を九州電力の系統に接続し、電力市場を通じて地域の需給調整に寄与する計画です。

具体的には、九州エリアで電力が余る時間帯には蓄電池に充電し、需要が高まる時間帯には放電して電力供給をサポートします。

この運用により、再生可能エネルギーのさらなる有効活用と、地域グリッドの安定化が期待されます。

また、本プロジェクトは新規事業として採算性や技術的課題の検証も目的としており、蓄電システムの効果やビジネスモデルを実証した上で、将来的な事業拡大につなげる方針です。

大和ハウス工業では、この成果を踏まえて他地域への展開や蓄電池を活用した新サービス創出も視野に入れているものと考えられます。

建設業界にとっての蓄電所ビジネスの意味

建設業界にとって住宅メーカーの蓄電所事業参入は、エネルギー分野の需要増大に伴う新たな建設プロジェクト機会の拡大を意味します。

本章では再生エネインフラ拡大がもたらすビジネス機会と、求められる人材・技術について考察します。

再エネインフラ拡大がもたらす新たなビジネス機会

太陽光発電所や風力発電所の建設はすでに多くの建設会社が携わってきましたが、大規模蓄電池施設の建設も今後重要な分野となるでしょう。

蓄電所は発電所と同様に設備の設置工事や土木工事、電気工事が必要であり、建設業者にとって新たな受注分野として期待できます。

また、蓄電池施設の施工は土木造成から電気設備まで多岐にわたりますが、いずれも建設会社にとって馴染みのある技術領域です。

大和ハウス工業が自社プロジェクトで培ったノウハウは、将来的に外部向けの蓄電池施設建設事業へ発展する可能性もあります。

実際、エネルギー分野への関与は企業の新規事業開拓の一環として注目されており、同業他社でも再エネ関連事業に乗り出す動きがみられます。

例えば、ゼネコン各社がメガソーラー建設に参画したり、設備工事会社が蓄電池システムの設置サービスを展開したりするケースが増えています。

再エネインフラ拡大の波は、建設業界に新たなビジネスチャンスと市場拡大をもたらしているのです。

蓄電所建設で広がる技術ニーズと人材への影響

蓄電所の建設・運用には、建築土木の知識に加えて電気工学やエネルギーマネジメントの知見が求められます。

大型バッテリー設備の据え付けや変電設備との接続工事、制御システムの設計など、高度な専門性を要する領域です。

そのため、建設業界の技術者にとっても新たなスキル習得の機会と言えます。

再生可能エネルギーや蓄電技術に精通した人材は今後ますます重宝されるでしょう。

特に電気主任技術者やエネルギー管理士などの資格・知識を持つ技術者は、蓄電プロジェクトで中心的な役割を担うことが期待されます。

また、施工管理の観点でも、蓄電池モジュールのクレーン搬入や安全管理、消防法への対応など独自の留意点があります。

こうした新分野への対応力を身につけた企業・人材は業界内で競争優位を得られる可能性が高く、キャリア形成の面でも再エネ・蓄電分野は注目すべき領域となっています。

こうした知見を持つ施工管理技士や技術営業などのプロフェッショナルにも、新たな活躍の場が広がるでしょう。

大和ハウス工業とはどんな会社?

最後に、大和ハウス工業という企業について簡単に解説します。

日本を代表する総合住宅メーカーであり、建設業界最大手の一角を占める同社の歴史と現在の事業展開を見ておきましょう。

国内最大級の総合住宅メーカー・大和ハウス工業の歩み

大和ハウス工業株式会社は1955年に創業者・石橋信夫氏によって設立されました。

その名の通り住宅事業を出発点とし、日本初のプレハブ住宅「ミゼットハウス」を発売するなど住宅業界のイノベーションを牽引してきた企業です。

戸建住宅やマンションの供給戸数で国内トップクラスを誇り、近年では商業施設や物流センターの開発、都市開発事業にも力を入れています。

また、全国に支店網を持ち、従業員数は単体で約16,000人、グループ全体では約48,000人規模(2024年現在)とされ、売上高もグループで4兆円を超える巨大企業です。

長年培った信頼と技術力を背景に、「技術の大和ハウス」のスローガンの下、住宅のみならず幅広い領域で事業を展開しています。

東証プライム市場に上場する一部上場企業で、安定した経営基盤を持ちながら革新的な取り組みを続けています。

エネルギー事業への多角化と蓄電事業の位置付け

そんな大和ハウス工業は、ここ数年でエネルギー事業への多角化を進めています。

同社は「DREAM Solar」のブランド名でメガソーラー(大規模太陽光発電所)事業を全国で展開し、発電した電力を電力市場や自社グループで活用するなど、発電から販売まで一貫したビジネスモデルを構築してきました。

今回の蓄電所事業参入は、そのビジネスモデルに蓄電・調整力という新たなピースを加える動きです。

蓄電池を活用することで、発電した電力を効果的に蓄えて必要な時に供給でき、電力需給のコントロールによる収益も得られます。

大和ハウス工業は第7次中期経営計画でも再生エネルギー関連事業を成長戦略の一つに掲げており、蓄電ビジネスへの参入はその具体策と言えるでしょう。

「建築×エネルギー」のシナジーを追求する姿勢は、今後の建設業界における新たなトレンドとなる可能性があります。

まとめ

大和ハウス工業の蓄電所事業参入は、住宅メーカーがその強みを活かしてエネルギー分野に挑戦する好例として注目されます。

再生可能エネルギーの普及に伴い、蓄電池による需給調整は社会的な必須インフラとなりつつありますが、その担い手として建設業界の企業が積極的に関与していく流れが見えてきました。

本記事で解説した通り、大和ハウス工業は自社の遊休地と技術力を活用して大型蓄電池の実証を開始し、将来的には新たな事業の柱へ育てようとしています。

これは同社に留まらず、業界全体にとってもエネルギー分野への進出とビジネスチャンス拡大を示唆する動きです。

建設業に携わる人材にとっても、再生エネ関連の知識やスキルは今後ますます重要になるでしょう。

参考:大和ハウス工業 プレスリリース、PR TIMES LOGISTICS TODAY

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