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竹中工務店、長周期地震動に挑む新型制振ダンパーを開発 – FMS合金で製作効率化と耐久性向上

建設大手の竹中工務店と物質・材料研究機構(NIMS)は、高層建築を巨大地震の長周期・長時間の揺れから守る新型制振ダンパーを共同開発しました。
このダンパーは鉄・マンガン・ケイ素を主成分とするFMS合金製の芯材を用いた「H形断面ブレース型」で、従来型と同等の地震エネルギー吸収性能を維持しつつ構造を簡素化しています。
さらに、FMS合金の優れた疲労耐久性と座屈耐性を最大限に活かす設計により、一般的な鉄骨製作工場で特別な設備無しに製造可能となり、製作効率と汎用性の大幅な向上を実現しました。
本記事では、この新技術の背景にあるキーワードの解説から開発の経緯・技術的特徴、もたらす価値、そして今後の展望までを詳しく分析します。

1. 長周期地震動と制振技術、竹中工務店の新開発の狙い

高層建築を脅かす長周期地震動とは

大地震の際には、周期の長いゆっくりとした大きな揺れ(長周期地震動)が発生することがあります。
長周期地震動では高層ビルが大きく長時間揺れ続ける特性があり、震源から数百km離れた都市部でも超高層建築に深刻な影響を及ぼしかねません。
このような揺れにより建物上層階では家具が倒れる・落下するといった室内被害が生じ、エレベーターの作動停止や天井材の脱落など建物機能にも支障が出る恐れがあります。
従来の地震対策指標である震度では高層階特有の揺れの大きさを十分表現できないため、気象庁は長周期地震動の揺れを4階級に区分する独自の基準を設けるなど、その脅威に対する社会的関心と対策が近年高まっています。
実際に2023年には長周期地震動の予測手法が緊急地震速報に組み込まれ、早期警戒情報として提供が開始されるなど、官民一体で高層建築の長周期地震動対策が進められています。

こうした背景から、建設業界では長周期地震動への対策技術が大きな課題となっています。
特に高層ビルの安全性確保や事業継続計画(BCP)の観点で、建物の揺れを低減する制振技術への注目が高まっています。
制振ダンパーは建物に設置して地震エネルギーを吸収・散逸させる装置で、建物躯体の損傷軽減や揺れの抑制に効果を発揮します。
長周期地震動のような繰り返し長時間の揺れに対しては、従来以上に疲労耐久性に優れた制振デバイスが求められるため、各社が研究開発に取り組んでいます。

竹中工務店とNIMSによる制振技術開発の取り組み

竹中工務店はこの課題にいち早く着目し、国立研究開発法人で材料研究をリードする物質・材料研究機構(NIMS)と共同で新素材を用いた制振ダンパー開発を継続してきました。
中核となる素材はFMS合金(Fe-Mn-Si系合金)と呼ばれる鉄系の特殊合金です。
鉄に高濃度のマンガン (Mn)やケイ素 (Si)等を加えたこの合金は、形状記憶効果と優れた耐疲労性を併せ持つことが特徴で、繰り返し荷重に対する材料の劣化が極めて少ない点が制振用途に適しています。
竹中工務店とNIMSはこのFMS合金に着目し、その特性を最大限に活かせるダンパー形状や加工方法の研究を進めてきました。

2019年には最初の試作品として平板状のFMS合金芯材をモルタルと鋼管で挟み込んだブレース型制振ダンパーを開発し、その後も改良を重ねています。
特に巨大地震でも高層ビルを守ることを目標に掲げ、NIMSや素材メーカー(淡路マテリア株式会社など)との産学官連携でプロジェクトを推進してきました。
こうした努力により、2022年にはFMS合金が建築基準法に基づく指定建築材料の認定を取得し、実建築物への本格適用に必要な法整備もクリアしています。
つまり竹中工務店らの制振ダンパー開発は、素材研究から法認定まで一貫して進められてきた国家レベルの最先端プロジェクトと言えます。
その集大成が、今回発表された「H形断面ブレース型FMS合金制振ダンパー」なのです。

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2. FMS合金制振ダンパー開発の経緯

開発の歩み: 平鋼型から十字型、そしてH型へ

竹中工務店とNIMSによるFMS合金制振ダンパー開発は、段階的な改良を重ねてきました。
その主なマイルストーンを以下の表にまとめます。

【開発の年表】

開発・認定 特徴・トピック 
2019年 平鋼断面

FMS合金製の平板芯材をモルタルと鋼管で補剛した初期モデル。

※2019年開業の愛知県国際展示場(Aichi Sky Expo)に初適用。

2022年 FMS合金

淡路マテリア株式会社と製造委託先である日鉄ステンレス(現日本製鉄)により連続鋳造による製造を実現。

建築基準法に基づく指定建築材料の認定を取得。

2023年 十字断面

エネルギー吸収性能を約2倍に高めた改良モデルを開発。

FMS合金芯材を十字形に配置した構造。

2025年 H形断面

H形断面のFMS合金芯材を鋼管で覆うシンプル構成で製作効率化と汎用性向上を実現。

一般鋼材ダンパー比で疲労寿命7~10倍の性能を確認。

※東京都中央区の長瀬産業東京本社ビル(地上14階建)に初適用。

上記のように、初期モデルからエネルギー吸収能力を倍増させた十字型モデルを経て、現在のH形断面モデルに至っています。
それぞれの段階で耐震性能と施工性の向上が図られており、特に2025年開発のH形断面ダンパーは前世代と同等の制振性能を維持しつつ大幅なシンプル化を達成した点が画期的です。
開発のスピードも特筆すべきで、素材開発からわずか数年で法認定取得と実建造物への適用を成し遂げた点は、研究と実務の橋渡しに成功した好例と言えるでしょう。

実用化への道: 材料認定と初適用事例

新型制振ダンパーの実用化に際して重要な転機となったのが、2022年のFMS合金に対する国土交通大臣認定の取得です。
建築物に新素材・新構造を使用する場合、この材料認定を受けて指定建築材料となることが不可欠です。

認定取得の背景には、NEDOの「中小企業への橋渡し研究開発促進事業」で、淡路マテリア株式会社と製造委託先である日鉄ステンレス(現日本製鉄)により、大面積のFMS合金板の製造方法として連続鋳造による製造を実現させ、材料認定取得という形で結実しました。

その結果FMS合金の高い耐疲労性能や安全性が公式に認められました。
この認定取得により、FMS合金制振ダンパーを設計に組み込んだ高層建築の計画が可能となり、技術の社会実装が一気に加速します。

そして2025年12月、満を持して発表されたのがH形断面の新型ダンパーであり、東京都中央区で建設中の長瀬産業東京本社ビル(地上14階建て、高さ約63m)への初適用が公表されました。
このビルは竹中工務店が設計・施工を手掛けるオフィスビルで、2026年6月の竣工を予定しています。
各階に今回開発の制振ダンパー計18基と粘性ダンパーを組み合わせて配置し、巨大地震後でも事業継続が可能なオフィスを目指した最新鋭の制振構造となっています。
設置にあたっては執務空間を邪魔しないコンパクトな寸法に収められており、制振効果と空間利用の両立を図った点も実用上大きなメリットです。
このように、新型ダンパーは研究室の産物に留まらず実際の建築現場で価値を発揮し始めており、今後の普及に向けた重要な一歩を踏み出しました。

3. 新型『H形断面ブレース型』ダンパーの技術的特徴

優れた耐久性:疲労寿命「7~10倍」の秘密

新型ダンパー最大の特徴は、その驚異的な耐久性能にあります。
開発者らの試験によれば、一般的な鋼材を用いた従来型ダンパーに比べ、本ダンパーの疲労寿命は約7~10倍にも達します。
この「疲労寿命が10倍」というインパクトは、長周期地震動のように繰り返し何度も揺すられる環境下でも性能を維持できることを意味します。
なぜこれほどの差が生まれるのでしょうか。
その秘密は素材と構造設計にあります。

まず素材面では、芯材に用いられているFMS合金自体の高い耐疲労特性がベースにあります。
FMS合金は変形時に結晶構造の相変化を伴う形状記憶合金であり、この性質が塑性変形によるエネルギー吸収を効率化すると同時に材料内部の応力を分散させます。
具体的には、繰り返し変形を受けると素材内部で変形誘起の相変態とその逆変態によりひずみの蓄積を抑制しています。
竹中工務店の発表によれば、FMS合金製のH形断面芯材は変形時にひずみを全体に分散させ、局部的な疲労き裂の発生・進展を抑制できることが確認されています。
その結果、補剛(座屈補強)の構成を簡素化しても卓越した疲労耐久性を発揮できるわけです。

シンプル構造と製作容易化の実現

次に構造・製作面でのイノベーションとして注目すべきは、ダンパー構成の大幅な簡素化と製造プロセスの容易化です。
新型ダンパーはH形断面のFMS合金芯材を鋼管で覆うだけというシンプルな形状を採用しています。
前世代の「十字断面」型ではFMS合金プレートを十字に組み合わせて溶接し、更にそれを鋼管や枠で挟み込む複雑な構造でした。
これに対しH形断面型では、断面がH字型になるよう予め成形したFMS芯材を一本の鋼管(角筒)で包絡する形となっており、部材点数の削減と構造の単純化に成功しています。
シンプルな構成は製作の効率化につながり、品質管理面でもバラツキを減らす効果が期待できます。

しかし、構造を簡素にすると問題となるのが芯材の溶接や組立てです。
高性能なFMS合金とはいえ、異種材料である鋼管との接合や、H形状を形成する溶接工程では、材料特性を損なわない高度な技術が求められます。
そこで開発チームはFMS合金専用の溶接ワイヤ材料を用い、適切な溶接条件(温度管理や手順)の範囲を詳細に検証しました。
その結果、特殊な大型設備や高度な職人技に頼らずとも、汎用的な鉄骨製作工場で本ダンパーを一貫製造できるプロセスを確立しています。
竹中工務店による最適設計と構造性能評価、NIMSによる溶接技術支援の両面からのアプローチで、「どこでも作れる制振ダンパー」を実現した点は大きな意義があります。
これにより製造コストの低減や大量生産にも道が開け、今後の普及に弾みをつけると期待されています。

また、シンプルな構造設計は信頼性の向上にも寄与します。
部材点数や溶接箇所が減ることで、施工現場での取り付けミスのリスクやメンテナンスの手間も軽減されます。
つまり、新型ダンパーのシンプルさは製造段階から施工・維持管理の段階までメリットをもたらす設計上の工夫なのです。

4. 新型制振ダンパーがもたらす価値と効果

高層ビルの安全性・事業継続性の向上

新型制振ダンパーの導入により、高層ビルの安全性と事業継続性(BCP)の向上が大いに期待されます。
従来、巨大地震後には制振装置自体の損傷や劣化により性能低下が懸念され、場合によっては補修・交換が必要となるケースもありました。
疲労耐久性の高いFMS合金ダンパーであれば、そのような性能低下リスクを最小化でき、震災後の迅速なビル機能復旧に寄与します。
竹中工務店も「この技術の汎用性向上により、大地震時の対策技術として幅広い建築物の事業継続性向上に貢献する」と述べており、新型ダンパーがBCP強化の切り札となることを強調しています。

実際、長瀬産業東京本社ビルでの採用事例では「大地震を受けても事業継続が可能なオフィス」を実現するため、新型ダンパーが粘性ダンパー等と組み合わせ各階に配置されました。
限られたスペースに18基のダンパーを効率良く設置しつつ執務空間を阻害しないよう配慮された設計となっており、制振効果と空間有効活用を両立しています。
このような工夫により、仮に南海トラフ巨大地震のような長周期地震動に見舞われても、建物躯体の損傷や設備被害を最小限に抑え、地震後もオフィス業務を継続できる環境が整備されつつあるのです。

さらに、安全性向上の効果は建物自体だけでなく、その周囲環境にも波及します。
高層ビルの制振性能が高まれば、地震時に建物が大きく揺れて他の建物と衝突したり外装材が落下したりするリスクも低減できます。
これは都市部で密集する高層建築群全体の安全性向上につながり、災害に強い街づくりにも寄与するはずです。
新型ダンパーの普及は、個々の建物のBCP強化のみならず、都市レベルでのレジリエンス向上に貢献すると期待されます。

建設業界への影響と普及のメリット

革新的な制振技術の登場は、建設業界全体にも様々なポジティブな影響を与えるでしょう。
従来、先進的な制振デバイスは製作に高度な技術や設備を要するため生産拠点が限られ、結果として高コスト・長納期になりがちでした。
新型ダンパーはそのハードルを下げたことで、より多くの建設プロジェクトで採用しやすくなると考えられます。
量産効果によるコスト低減が進めば、中小規模のビルや地方の建築物にも導入が広がり、建築物全体の地震安全性底上げにつながるでしょう。

新技術の普及は建設業界の競争力強化にもつながります。
日本発の先進的な制振デバイスが実績を積めば、海外の耐震市場に対してもアドバンテージとなり得ます。
近年、震災リスクの高い国や地域で日本の制震・免震技術が採用される例が増えており、新型FMS合金ダンパーも国際展開のポテンシャルを秘めています。
建設業界の技術者にとっても、本技術の登場は学ぶべき新たなトピックです。
高性能材料の知識や新しい溶接技術への理解が求められる場面が増える可能性があり、業界人材のスキルアップや専門分化を促す要因ともなるでしょう。
制振技術の進歩は、建物の安全性向上という直接的な価値だけでなく、業界の成長や技術者のキャリア形成にも影響を及ぼすと考えられます。

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5. 今後の展望、制振技術の未来

継続的な導入計画

竹中工務店とNIMSが生み出した新型制振ダンパーは、今後計画的な導入拡大が見込まれています。
前述のように、既に長瀬産業東京本社ビル以外の物件への適用も決定しており、当面は毎年1~2棟のペースで継続的に実建築物へ導入していく計画です。
このペースは、新技術としては堅実かつ着実な普及戦略と言えます。
実案件での適用を重ねることでデータや経験を蓄積し、設計手法や施工法を洗練させながら、安全性と信頼性を実証していく段階と位置付けられます。

制振技術のさらなる革新と新分野への応用

今回の新型ダンパー開発はゴールではなく、制振技術革新の新たなスタートでもあります。
素材技術と構造設計の融合により従来にない性能を実現しましたが、研究者・技術者たちは既に次の展開を見据えています。
例えば、FMS合金自体の改良や新素材への応用展開が挙げられます。
開発陣によれば、FMS合金は鉄系以外の素材系統にも適用可能であり、今後さらなる疲労耐久性の向上や軽量化を目指した合金開発も視野に入っているとのことです。
将来的には「第2世代・第3世代のFMS合金」が登場し、それに合わせてダンパーの形状や性能も進化していく可能性があります。

また、建築分野以外への応用にも期待が高まります。
NIMSは「本技術を建築のみならず土木分野など様々な産業分野で活用していきたい」としており、橋梁やタワー等の土木構造物、あるいはプラント設備など、耐震・制振が重要な他分野への展開も視野に入れています。
長周期地震動は高層ビルだけでなく、長大橋や石油タンクのような大型構造物にも影響を与えるため、FMS合金ダンパーの有効性はこれらにも応用可能でしょう。
さらに、制振技術と他の先端技術との融合も考えられます。
例えば制振デバイスのモニタリングにIoTセンサーを組み合わせてリアルタイムでダンパーの状態を監視したり、AI技術による地震予測と連動してダンパーの最適配置を設計したりする研究も進むかもしれません。
制振技術の進歩は今や材料科学、情報工学、建築工学といった枠を超えた総合的なテーマとなりつつあります。

建設業界にとって、制振技術の未来像は明るいと言えます。
巨大地震の脅威に対抗する技術革新は社会的要請でもあり、国を挙げた研究開発支援が今後も続くでしょう。
竹中工務店のような大手企業が牽引する形で、新素材の活用や革新的な構造デバイス開発がさらに活発化すれば、日本の建築物の耐震安全性は一層向上し、「地震に強い日本」というブランド力も高まります。

まとめ

長周期地震動への備えとして、竹中工務店とNIMSが開発した新型「H形断面ブレース型」 FMS合金制振ダンパーは、建設業界における制振技術の画期的進歩を示す事例となりました。

建設業界の最前線で働く我々にとって、このような最先端技術の動向をキャッチアップし理解しておくことは非常に重要です。
なぜなら、新技術の普及は設計手法や施工プロセスに変革をもたらし、求められるスキルセットにも影響を及ぼすからです。

幸い、日本の建設業界には技術革新を現場に実装していく土壌があり、ゼネコン各社や研究機関の連携によって世界をリードする耐震技術が次々と生み出されています。
今回の竹中工務店とNIMSの成果もその一つであり、今後予想される南海トラフ巨大地震などへの備えとしてタイムリーかつ重要な進歩と言えるでしょう。
私たち施工王も、建設業界に特化した転職支援会社として、こうした最前線の技術トレンドを注視しつつ、業界で働く皆様やこれから飛び込もうとする皆様に有益な情報を提供していきます。
新型制振ダンパーに代表される革新的テクノロジーの潮流を捉え、安全・安心な社会インフラづくりに貢献できる人材の育成とマッチングに一層努めてまいりましょう。

【参考資料】

竹中工務店/NIMSのプレスリリース及び建設専門紙の記事(竹中工務店2025年12月3日付プレスリリース)https://www.takenaka.co.jp/news/2025/12/02/

日刊建設工業新聞(2025年12月4日付)https://www.decn.co.jp

竹中工務店/NIMSのプレスリリース及び建設専門紙の記事(竹中工務店 2023年9月26日付プレスリリース)https://www.takenaka.co.jp/news/2023/09/05/index.html

国土交通省 気象庁 長周期地震動についてhttps://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/choshuki/

政府広報オンラインhttps://www.gov-online.go.jp/

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