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工事業の見積において欠かせないものの一つに歩掛(ぶがかり)があります。
適正価格の見積書を作成する際に必要になるものですが、日常生活では見聞きする機会がなく、あまり意味がわからないといった人も多いです。
今回は、歩掛の概要を中心に紹介します。
見積書の作成経験が少ない人や、これから経理として働く予定の人は、ぜひ参考にしてください。
歩掛とは?
歩掛とは、一つの作業を行う上で必要な作業手間を数値化した指標のことです。
工事業の見積書は、1件ごとに使う材料、取り付け場所といった条件が一般業と異なります。
そのため、誤った認識・計算で赤字を生まないよう、工事に必要な資材、作業員の人数、時間などを歩掛を用いて判断します。
例えば、1㎥の土を掘る場合、1日8時間で2人の作業員が必要というときは、「2人・日/㎥」と表すことができます。
この数値に、土をどれくらい掘るのか、作業員の人件費はいくらかといった「数量」「単価」を分けると、2人で土を掘ったときの費用も算出できます。
仮に、土を掘る量を3㎥、作業員1日あたりの人件費を10,000円とした場合、以下のような式になります。
3(㎥)×2 [ 人・日/㎥ ] ×10,000円 [ 円/人・日 ] =60,000円
2人で作業する場合は1日1㎥の採掘になるので3日掛かることも算出でき、工程を作成する際の根拠として提示することも可能です。
歩掛は作業手間を数値化したものと説明しましたが、ここで併せて覚えておきたいのが「出面」です。
出面とは
出面とは、建設工事現場に従事する作業員1日あたりの人数のことです。
上述した例で説明すると、2人の作業員が該当します。
建設現場ではどれくらいの作業員がどのくらいの時間働いていて、どのくらい無災害が続いているのかを記載する「無災害記録」と呼ばれる用紙があります。
無災害記録は毎月会社へ報告する決まりになっているため、毎月出面を取る必要があります。
また、出面によって具体的な作業量、期限に対する労働者の人数を感覚的につかむこともできるので、新入社員に管理を任せ、肌で基礎資料を感じてもらうケースも少なくありません。
「でづら」「でめん」と呼ばれることもあり、現場や会社によっては「人工(にんく)」と呼ぶこともあります。
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国土交通省の標準歩掛の設定基準
国土交通省では、工事の適正予定価格を算出できるよう、標準価格と呼ばれるものが公表されています。
ここでは、国土交通省が公開する「公共建築工事標準単価積算基準」より、どのような基準を定めているのかを紹介します。
➀年齢
標準歩掛では「健康な青年や壮年」を想定しています。
そのため、療養中の人や、初老・中年の職人が現場に従事する場合は、標準歩掛を参考にしながら、実際の作業員の年齢を加味して調整する必要があります。
また建設業の労働者の平均年齢は他業種・全産業と比較しても高い傾向にあり、作業員そのものの高齢化も進んでいます。
自社作業員の年齢を把握した後は、標準歩掛を参考にしつつ、柔軟に対処しましょう。
➁資格
標準歩掛は資格によって設定されています。
工事現場では必ず一人は監理技術者といった有資格者を配置しなければなりません。
このように、有資格者の有無や作業員のなかの有資格者の割合等でも歩掛は変動します。
例えば電気工事業の場合、電気工事士の有資格者と無資格者では歩掛が異なるイメージです。
歩掛を算出する上では、実際の作業に従事する作業員の資格の有無も考慮するよう注意しましょう。
③実務経験の年数
標準歩掛は実務経験の年数によっても設定されています。
そのため、工事現場での経験年数によっても歩掛は変動する点に注意が必要です。
例えば実務経験が1年程度の新人作業員と経験年数が10年以上の作業員では、経験年数によって作業工程や準備する資材の理解度、働き方などが異なります。
そのような理由から、実務経験の年数も考慮した上で歩掛を変更しましょう。
歩掛を使用する5つのメリット
ここからは、作業手間を数値化した指標である歩掛を使用するメリットを紹介します。
➀赤字工事の削減
工事現場ごとに適した歩掛の使用によって、赤字工事の受注を避けつつ経営を維持することができます。
どんぶり勘定のまま工事の見積もりを行うと、見積価格の誤差により、請求金額に大小どちらかのズレが生じることがあります。
請求金額が大きいと取引先からの信用を失う恐れがあり、逆に少ない請求だと自社売上が少なく赤字を出す可能性があるなど、自社・取引先双方にデメリットが生まれます。
作業員や資格の有無、経験年数などで導き出した適切な歩掛を利用することで、見積価格の誤差をなくし、赤字を生む受注の予防につながります。
➁正確な労務費の把握
歩掛の活用によって適正な労務費の把握も可能です。
資材の種類や取り付け場所、工事の種類など、工事には関係する項目がさまざま。
その中でも適切な算出が難しい項目に労務費があります。
歩掛によって労務費に掛かる適正な費用が把握できれば、赤字工事を減らせるほか、経営状況の把握にもつながり、利益向上に必要な工事も明確になります。
③お客様からの信頼獲得
歩掛の活用によって取引先に根拠のある説明が行えます。
例えば取引先から同じような工事を発注したにもかかわらず、以前に比べて費用が高いと指摘された場合です。
このような場合でも、適切な歩掛を使用することで正しい費用が明確になる上、必要な労働時間を交えながら説明できます。
正当な理由があることを証明できるので、取引先からの信頼獲得につなげやすいといったメリットもあります。
④正確なスケジュール管理
どんぶり勘定によって算出された見積もりでは、予想外のトラブルを考慮した工数ではないため、赤字を招くことも。
歩掛の活用によって、必要とする費用や日数、作業員数を算出できるので、正確なスケジュールを管理することが可能です。
万が一のトラブルや天候による工期の遅れが出ても、歩掛によってスケジュールの変更にも柔軟に対応できます。
⑤経営強化
適正な労務費を押さえ、正しい見積もりを作成できるようになれば、経営情報をより正確に把握することも可能です。
歩掛の使用によって経営状況を多角的に分析できるので、自社課題や強み、特徴が把握でき、アピールポイントを押し出した宣伝にも役立ちます。
強みや特徴を把握できれば自社売上につながる工事が明確になり、利益を生み出す工事と赤字を生む工事の判断もしやすくなります。
歩掛データにおける2つの注意点
ここからは、歩掛データを使用する際の注意点を紹介します。
➀標準歩掛は経営状況に合わせること
国土交通省による標準歩掛は、健康な青年や壮年など、ある一定の人を想定して決められています。
そのため現場に従事する作業員によっては、標準歩掛では合わない可能性がある点に注意が必要です。
作業員を把握するためには、「出面(または人工)」を記載した書類を取り、どのような人が何人で現場に参加しているのかを把握した上で算出しましょう。
➁定期的な見直しを図る
自社用に設定した歩掛は定期的に見直すことも大切です。
建設工事は現場によって必要な工事が異なります。
工事種類は一つではないことから、1種類の歩掛を使い回すと工数や見積に誤差が生じる可能性があります。
新入社員の有無や既存社員の高齢化、実務経験の年数など、社内状況は毎年大きく変わるので、定期的に歩掛を見直し、適切な歩掛で積算・見積もりができているかを確認しましょう。
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歩掛について理解を深めよう
今回は歩掛について紹介しました。
歩掛は一つの作業を完了するまでの作業効率を数値化した指標です。
歩掛の活用によっては根拠のある積算・見積金額の算出・提示が可能になるので、取引先からの信頼獲得につながります。
ただし、新入社員が入社した場合や作業員の高齢化、資格を取得した作業員の増減があった場合などは歩掛に変動があるので、算出方法の見直しや変更を行い、常に最適なものを活用するよう注意しましょう。
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