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渋谷マルイ建て替えで日本初の木造商業施設へ – その背景と展望

渋谷マルイ

渋谷のランドマークである「渋谷マルイ」が、約50年の歴史を経て大きな転換点を迎えようとしています。

1971年の開業以来ファッションの発信地として親しまれてきた同店は2022年8月末で一時休業し、建物を解体したうえで2026年には日本初の本格的木造商業施設として再オープンする計画です。

本記事では、渋谷マルイ建て替え計画の背景や特徴、設計・施工に携わる企業、木造化の狙い、そして完成後の展望について、建設業界の視点を交えながら詳しく解説します。

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渋谷マルイ建て替え計画の背景

渋谷マルイ建て替えの背景には、歴史ある商業施設を次世代にふさわしい形へと進化させる狙いがあります。そのキーワードである「渋谷マルイ 建て替え」から見える意図を紐解きます。

渋谷マルイの歴史と渋谷における役割

渋谷マルイは1971年に開店して以来、丸井グループのフラッグシップ店舗として約50年間にわたり営業を続けてきました。

1980年代のDCブランドブームでは渋谷を代表するファッショントレンドの発信拠点となり、2000年代以降はアニメイベントなども開催するなど、時代のニーズに合わせて変化を遂げてきたのが特徴です。常に渋谷の若者文化・流行の最前線に位置し、地域に根ざした商業施設として愛されてきた渋谷マルイですが、50年という歳月を経て施設の老朽化や周辺環境の変化も進みました。

そこで丸井グループは、現代の多様な顧客ニーズに柔軟に対応し続けるため、建物そのものをゼロから作り直す決断に至ったのです。

画像の説明

再開発計画の概要と「将来世代の未来を共に創る」という理念

渋谷マルイは2022年8月28日をもって一時休業し、長年親しまれた建物の解体工事に着手しました。この建て替え計画は、単なる建物の更新に留まらず、丸井グループが掲げる「将来世代の未来を共に創る」という理念を体現するプロジェクトでもあります。

新店舗の開業は2026年を予定しており、日本初の本格的な木造商業施設として生まれ変わる計画です。木造化により鉄骨造に比べ約2,000トンものCO2排出削減を見込んでおり、サステナブルで環境負荷の少ない都市型商業空間を実現することが大きな狙いです。このプロジェクトは渋谷という世界的にも注目される街の中心地で行われることから、地域再開発の新たなモデルケースとしても期待されています。

なお、建て替え期間中も近隣の「渋谷モディ」が営業を継続しており、顧客のショッピング機会を途切れさせない配慮もなされています。

建て替え後の新「渋谷マルイ」建物概要

2026年に生まれ変わる渋谷マルイの新しい商業施設は、従来のビルから大きく様変わりします。

その規模や構造、所在地について基本情報を整理します。

建物の規模・構造と施設概要

建て替え後の新「渋谷マルイ」の施設概要は以下の通りです。

地上9階建て(塔屋1階)・地下2階という規模で、延床面積は約6,850㎡(物販店舗面積は約2,800㎡)に及びます。

項目 概要
建物規模 地上9階(塔屋1階)、地下2階
延床面積 約6,850㎡(物販エリア約2,800㎡)
建築主 株式会社丸井
設計者 三菱地所設計(基本設計・監理)
※リードデザイナー:Foster+Partners
施工者 戸田建設・住友林業 共同企業体(JV)
開業予定 2026年(予定)

出典:丸井グループ プレスリリースおよび建設業界ニュースnews.build-app.jphttps://www.0101.co.jp/assets/img/013/2026.pdf

立地とアクセス

新生渋谷マルイの所在地は従来と同じく渋谷区神南1丁目の渋谷公園通り入口付近で、JR・私鉄各線「渋谷駅」から徒歩数分という好立地です。

渋谷スクランブル交差点にも程近く、再開発が進む渋谷エリアの中心に位置しています。周辺では近年、大規模複合施設の渋谷スクランブルスクエアや、リニューアルした渋谷パルコなど、新しいランドマークが次々と誕生しています。

その中で渋谷マルイの建て替えは、公園通りエリアの活性化と景観向上にも寄与し、渋谷の街全体のさらなる魅力創出につながると期待されます。

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設計・施工を担う企業の概要

次に、この建て替えプロジェクトを具体化する設計・施工の担い手となる企業について見ていきましょう。

国際的な建築デザインファームと、日本の大手建設会社がタッグを組み、木造高層建築という挑戦に挑んでいます。

設計:Foster+Partnersと三菱地所設計

今回の渋谷マルイ建て替えにおける建築デザインのリードデザイナーを務めるのは、イギリスの世界的な建築設計事務所「Foster+Partners(フォスター・アンド・パートナーズ)」です。

1967年にノーマン・フォスター氏によって設立されて以来、50年以上にわたり環境に配慮した先進的な建築デザインを世界中で手掛けてきたグローバルファームであり、都市計画や空港、オフィスビルから文化施設まで45か国以上で多様なプロジェクトの実績を持ちます。

同社は持続可能な建築とエコロジー分野のパイオニアとして知られ、今回のプロジェクトでも最先端のサステナブル設計手法を提案しています。実際、Foster+Partnersのデイビッド・サマーフィールド氏(シニアエグゼクティブパートナー)は「渋谷の中心でこのような画期的で持続可能なプロジェクトに取り組めることを嬉しく思う。木造構造は建物の炭素排出を大幅に削減すると同時に、訪れる人々に温かく開放的な体験を提供するだろう」とコメントしています。

このF+P社のデザインコンセプトを日本の法規や環境に適合させ具体化する役割を担っているのが、共同設計者である株式会社三菱地所設計です。三菱地所設計は三菱地所グループの設計部門を源流とする日本有数の建築設計事務所で、国内外の大型プロジェクトで豊富な実績を持ちます。国際的なデザインと国内の知見を融合させる形で、渋谷マルイの次世代型商業施設づくりに取り組んでいます。

施工:戸田建設・住友林業JVの強み

新生渋谷マルイの施工を担当するのは、「戸田建設・住友林業共同企業体(JV)」です。

戸田建設は明治期創業の老舗ゼネコン(総合建設会社)で、数々のビル・公共施設建設を手掛けてきた技術力を持ちます。一方、住友林業は木材建築の分野で国内トップクラスの実績とノウハウを有する企業で、主に住宅から大型施設まで木造建築の可能性を追求してきました。

丸井グループと住友林業は2019年に業務提携契約を結んでおり、本プロジェクトでもお互いの強みを活かした協働が特徴です。住友林業は自社グループで培った建築設計・施工ノウハウや木材の調達力を提供し、戸田建設との協力により木造と最新建築技術を融合させた一貫施工体制を実現しています。

このような異業種ともいえる組み合わせのJVは、木造高層建築というチャレンジに対して最適な体制と言えるでしょう。木材を多用する構造であるがゆえに、伝統的な木造技術と現代の建築技術の両面に精通したチームで取り組むことで、安全性や品質を確保しつつ、新たな価値ある商業空間を創出する狙いがあります。

出典:https://sfc.jp/information/news/2019/2019-05-09.html

木造化によるサステナブルな建築への挑戦

渋谷マルイ建て替え計画最大のトピックは、都市部の商業施設としては日本初となる「本格的木造化」です。

その意義と具体的な取り組み内容について、環境面・技術面から解説します。

日本初の本格的木造商業施設としての意義

近年、耐火集成材をはじめとした木造建築技術の飛躍的進歩により、都市部の9階建て商業ビルにも木材を本格活用できる時代となりました。新生渋谷マルイは、こうした技術革新を背景に、国内で初めて本格的な木造構造を主体とした大規模商業施設として生まれ変わります。

具体的には構造材の約60%に耐火性能を持つ木材等を使用することで、サステナブルな建築を実現します。木材は成長の過程でCO2を吸収することから、製造過程でCO2を排出する鉄に比べて環境負荷をかけない素材です。

そのため従来の鉄骨造で建て替えた場合より、約2000トンものCO2排出量を削減できる見込みです。また木造化によって、内装・外装にも木の温かみを活かした演出が可能となり、訪れる人々に癒しやぬくもりを感じさせる空間づくりにつながります。

大都市・渋谷の中心で木の香りや質感を備えた商業空間が実現することは、日本の建築業界における脱炭素・SDGs推進の象徴的事例となるでしょう。

多摩産材の活用と東京都の支援策

渋谷マルイ建て替えでは、「東京の木」である多摩産材(東京都多摩地域産の木材)が積極的に採用されています。地域で産出された木材を使う地産地消により、輸送に伴うCO2排出削減にも寄与する取り組みです。

例えば外装には多摩産のスギやヒノキを用い、自然な木目の風合いを都市の真ん中で楽しめるデザインとしています。内装についても無垢材を随所に用い、梁や柱には手触りや色合いの異なる複数種類の木材を組み合わせて検討するなど、細部まで木材へのこだわりが感じられます。

しかし計画当初、国産木材の価格はコロナ禍や国際情勢の影響で大きく高騰し、木材利用による建設コストに懸念が生じました。そこで活用されたのが東京都の「中・大規模建築物木造・木質化支援事業費補助金」です。多摩産材など国産材を使う大規模建築に対し東京都が補助金を交付する制度で、渋谷マルイの建て替えもこの補助金の対象となりました。

その結果、木材利用の促進と事業計画の収支バランスの両立が実現し、経済的課題をクリアして木造化への挑戦に踏み切ることができています。行政の支援を得て実現する本プロジェクトは、今後他の都市型木造建築のモデルケースともなり得るでしょう。

建て替えの目的と完成後の展望

最後に、渋谷マルイをなぜ今建て替えるのか――その目的と新店舗オープン後に見据える展望について考察します。

長期視点での企業戦略と、新たな店舗がもたらす価値に注目です。

多様なニーズへの対応と次世代型店舗への転換

丸井グループが渋谷マルイを建て替える最大の目的は、これまで培ってきた顧客基盤とブランド価値を次世代に継承し、さらに発展させるための「土台づくり」を行うことにあります。

50年にわたり若者文化を牽引してきた同店も、時代とともに顧客のニーズは変化しました。今回の建て替え決断には、老朽化対策だけでなく、デジタル化・EC普及などでリアル店舗の存在意義が問われる中、リアルならではの体験価値を提供できる次世代型店舗へ刷新する狙いもあります。

丸井グループはこの新生渋谷マルイを、グループが提唱するインパクトテーマ「将来世代の未来を共に創る」を体現する象徴的な店舗に位置付けています。

耐火木造という最先端技術を採用した建築そのものが環境未来志向を示すと同時に、50年前とは異なる現代の消費者ニーズ(例えば体験型の消費やサステナビリティ志向など)に応えるコンテンツを展開できる柔軟な空間とすることで、時代に即した商業プラットフォームへの転換を図っています。

サステナビリティに特化した運営と新たな顧客体験

完成後の渋谷マルイは、その運営方針にも従来にない特徴が打ち出される見込みです。丸井グループは新店舗を「環境負荷軽減や社会貢献に取り組むテナントに特化」して構成し、来店客にこれまでにない新しい体験価値を提供すると表明しています。

具体的には、サステナビリティやSDGsの目標に資する商品・サービスを提供するショップや、社会課題の解決に繋がるコンセプトを持つブランドなどを積極的に誘致し、単なるモノ消費ではなく体験や共感を得られる場を創出する方針です。

また、施設運営面でも太陽光など自然エネルギーの活用や再生可能エネルギー由来の電力使用など最高水準の持続可能技術を導入し、環境に優しい店舗運営を行う計画です。こうした取り組みにより、新生渋谷マルイは建物自体のグリーン化に加え、提供するサービス内容や運営方法まで含めたトータルでのサステナブル志向を鮮明に打ち出すことになるでしょう。

これらの挑戦は建設業界にとっても、新しい商業施設のあり方を考える上で大きな示唆となります。リアル店舗の価値が改めて問われる時代にあって、環境と社会に配慮した次世代型店舗モデルとして渋谷マルイの試みがどのような成果を生むのか、今から注目が集まっています。

まとめ

渋谷マルイの建て替えプロジェクトは、単なる老朽建物の更新に留まらず、環境配慮・技術革新・地域連携など複数の要素が融合した次世代型商業施設の創造という点で極めて意義深いものです。

日本初の本格木造商業施設として大量の木材を構造に活用し、多摩産材の採用や行政補助金の活用によってCO2排出量削減と地域資源の有効活用を両立させた点は、建設業界におけるサステナビリティ追求の最前線を示しています。

また、世界的建築家集団の設計力と国内有数の設計・施工チームの技術力を結集し、都市の中心に温もりある木質空間を創り出そうとする試みは、技術面でも新たな挑戦と言えるでしょう。

建設業界で働く人々にとっても、渋谷マルイ建て替えは今後の都市型建築や商業空間づくりの方向性を占うケーススタディとして注目に値するでしょう。

2026年の完成・開業時には、この木造商業ビルがどんな姿で街行く人々を迎え入れるのか。そして、それが渋谷という街や業界にもたらすインパクトがどれほどのものになるのか、非常に楽しみです。

参考資料: 渋谷マルイ建て替え計画に関する公式発表およびニュース記事prtimes.jpnews.build-app.jpなど。

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