建設業ニュース

オフィス賃料の物価(CPI)連動化が進む背景とその影響

日本経済は長年のデフレ停滞を脱し、近年ついにインフレの局面へ移行しつつあります。

実際、2025年現在の消費者物価指数(CPI)は前年比3%を超える伸びを示し、インフレが日本でも常態化する可能性が高まっています。

こうした状況下で、オフィス賃料にも物価上昇を反映させる「物価連動型 (CPI連動) 賃料」への関心が急速に高まっています。

すでに野村不動産や三菱地所系の企業など不動産大手が、オフィス賃料をCPIに連動させる契約を導入し始めており、従来「岩盤」とも称された不動産賃料にも変化の兆しが見えています。

この記事では、インフレ時代に注目されるオフィス賃料のCPI連動化について、その背景や仕組みを解説し、不動産業界・建設業界・オフィステナント (企業)それぞれへの影響を考察します。

建設業界に特化した転職支援を行う施工王の視点から、業界最前線の情報を分析し、インフレ時代に備えるヒントをお届けします。

日本にインフレ時代到来:「失われた30年」からの転換

長らく続いた物価停滞(いわゆる「失われた30年」)を経て、日本は徐々にインフレの時代へ移行し始めました。

物価上昇率が安定的にプラスとなる中、経済や不動産市場の前提もデフレ時代から見直す必要が出てきています。

長期停滞から物価上昇へ: 転換期の経済状況

1990年代半ば以降ほぼ横ばいだった日本の物価は、2022年頃から明確に上昇基調へと転じました。

日銀が2013年に掲げたインフレ目標2%も長らく達成できませんでしたが、2020年代に入り消費者物価指数(CPI)の上昇率がついに2%超えを定着しつつあります。

2025年4月時点でもCPI上昇率は前年同月比+3%を超えており、日本経済は持続的なインフレ局面へ移行しつつあるといえるでしょう。

このインフレ環境の到来により、企業活動や家計の意思決定、さらには不動産の価値評価まで、従来のデフレ前提から発想を転換する必要性が生じています。

実際、インフレが当たり前の時代には、オフィス市場においても従来のデフレ的な分析手法や戦略を再検討する必要があると指摘されています。

建設業界においても、コスト上昇への対応策や価格設定の見直しなど、新たな課題に直面している状況です。

インフレが不動産・建設市場にもたらす影響とは

物価上昇は不動産・建設分野にも様々な影響を及ぼしています。

例えば建設資材価格や人件費の高騰により、建設コストが急上昇しています。

従来はデフレ下で安定していたオフィス賃料も、インフレ環境では相対的に実質価値が目減りするため、資産価値評価や収益計画の見直しが必要です。

また、日本では長年にわたり不動産賃料が「岩盤」すなわち硬直的で変動しにくい項目と見なされ、物価が上がっても賃料は据え置かれる傾向がありました。

しかし足元では資材価格上昇や需給ひっ迫を背景に、不動産賃料にも上昇の兆しが見られます。

インフレ適応が不動産分野で進めば、日本経済の構造変化を映すものともなり得るため、建設業界としてもこの動向に注目しておく必要があります。

インフレに耐えうるビジネスモデルへの転換や、コスト増を見越した契約制度の導入など、経済環境の変化に即した対応が求められているのです。

オフィス賃料の名目上昇と実質賃料のギャップ

東京を中心にオフィスビルの名目賃料(額面上の賃料)はコロナ禍からの景気回復に伴い上昇傾向を見せています。

しかし、同時期の物価上昇率と比較すると、インフレを調整後の実質賃料の回復は力強さを欠き、名目と実質の乖離が拡大しています。

このギャップが、賃料に物価変動を織り込む必要性を浮き彫りにしています。

名目賃料の動向: 緩やかな回復基調

東京23区の大規模オフィスビル市場では、2023年後半から募集賃料の上昇傾向が見られました。

例えば2023年12月以降、都心Aクラスビルの平均募集賃料はゆるやかに上昇し始めています。

これは景気回復やオフィス需要の持ち直しを反映した動きで、不動産市況に明るい兆しが出てきたといえます。

ただし、その伸び率は消費者物価の上昇や建設コストの高騰と比べて限定的であり、名目上は上昇していても物価高を考慮すると十分とはいえません。

従来の賃料上昇局面では主に需給環境の改善が要因でしたが、今回の名目賃料上昇には物価上昇 (インフレ)そのものの影響が含まれている可能性があります。

今後もしインフレが定着すれば、名目賃料の上昇トレンド自体が物価上昇に沿った新たなサイクルを形成する可能性も指摘されています。

実質賃料で見る賃料水準: インフレ考慮の重要性

物価上昇率を考慮した実質賃料の視点でオフィス賃料を捉えると、名目の動きとは異なる実態が見えてきます。

2022年以降、日本でもCPIが上昇に転じた結果、名目賃料と実質賃料の差が広がり、2024年以降は名目賃料が上昇する一方で実質賃料は横ばいという状況が続いています。

ニッセイ基礎研の分析でも、「足元では名目賃料が上昇傾向にあるものの、実質賃料では依然として力強い回復には至っていない」と指摘されています。

つまり、オフィスオーナーから見れば表面的な賃料収入は増えていても、その購買力(実質価値)はあまり向上していないことになります。

この実質賃料の低迷は、インフレ下で賃料が十分に上がっていないことを意味し、前述のように建設コスト等の上昇分がオーナーの収益に転嫁できていない可能性を示唆します。

実際、物価と建設費を考慮に入れると現在の実質賃料水準は2000年以降で最も低い水準にあるとの分析もあり、賃料が過去と比較して割安になっている状況が浮き彫りです。

このギャップを是正し適正な利益を確保するためにも、インフレを賃料に反映する仕組みづくりが重要だといえるでしょう。

物価連動型賃料(CPI連動条項)とは何か

物価連動型賃料(CPI連動条項)とは、賃料を消費者物価指数などの物価指標に連動させて定期的に見直す契約方式です。

物価変動に応じて機械的に賃料を改定するこの方式は欧米では一般的なグローバルスタンダードであり、インフレ局面において賃料の実質価値を維持する有効な手段とされています。

日本でもインフレ定着を背景に注目され始め、物流施設など一部で先行導入例が出てきていますが、普及にあたっては慎重な設計・運用が求められます。

賃料を物価指数に連動させる仕組みと狙い

CPI連動賃料では、契約期間中でも物価(消費者物価指数)の変動に応じて賃料額を調整します。

例えば年間のCPI上昇率が2%であれば翌年の賃料も2%上げる、といった具合に、賃料の実質価値(購買力)を維持することが主目的です。

これによりインフレによる家賃収入の目減りを防ぎ、オーナーは長期契約中でも実質ベースで安定した収益を確保できます。

一方、テナント企業にとっても賃料が機械的・段階的に調整されることで、契約満了時に突然大幅な値上げを求められるリスクを抑え、予見可能性を高めるメリットがあります(ただしインフレ率が読めない場合はコスト不確実性が増すリスクもあります)。

この方式自体は欧米では広く普及しており、日本でも不動産大手がオフィス賃料への導入に取り組み始めたことで注目度が一気に増しました。

実際、国内でも先行して導入が進んでいる物流施設の賃貸借契約では、生鮮食品を除いたコアCPIに連動させる方式が主流となっています。

これは生鮮品など一時的な変動要因を除いた指標を使うことで、テナント・オーナー双方にとってより安定的で公平な賃料調整を図る狙いがあります。

総じて、物価連動型賃料の仕組みは「インフレに強い不動産」を実現する契約手法と言え、持続的インフレ時代における不動産運用・利用の新たなスタンダードになる可能性を秘めています。

導入にあたってのポイントと注意点

物価連動型の賃料契約を導入する際には、検討すべき設計ポイントがいくつか存在します。

以下の表に主要なポイントとその内容をまとめます。

検討すべきポイント 内容・例
連動させる物価指数の種類 賃料をどの指標に連動させるか。一般的には消費者物価指数(CPI)が用いられますが、生鮮食品を除くコアCPIを使うケースが多いです。他にも企業物価指数や建設コスト指数に連動させる方式も理論上は可能ですが、国内外ともにCPI以外を採用する例はまれです。
改定幅の算出方法 賃料を何%どのように改定するかの算出方法。例えば「直近1年間の物価上昇率そのまま賃料に転嫁する」 「一定期間(例:2~3年)の物価変動を合算して定期改定する」 「インフレ率の一部(例:50%)のみ反映させる」など契約ごとに取り決めます。物価変動に対する賃料感応度の設定がポイントです。
改定頻度(タイミング) 賃料改定を行う頻度です。年1回の定期改定が基本ですが、インフレ率が安定している場合は数年おきにまとめて改定する方式も考えられます。改定頻度は、賃料のタイムリーな追随とテナントの予算計画の安定とのバランスを踏まえて決定します。
変動幅の制限(キャップ&フロア) 物価変動による賃料改定幅に上限や下限を設けることです。例えば年間上昇幅を %までに制限する上限(キャップ)を設定すれば、ハイパーインフレ的な急騰時にテナントへの過度な負担増を防げます。逆に下限(フロア)を0%に設定すればデフレ時でも賃料を据え置きでき、オーナー側の収入急減を防ぎます。こうした制限により、インフレ率の想定外の変動に対するリスクヘッジとなります。
改定時の協議の要否 賃料改定を契約条項通り自動で行うか、あるいは改定時に改めて貸主・借主間で協議を行うかの取り決めです。原則は契約に従い機械的に改定しますが、物価急変動時には双方協議の上で調整するといった条項を加えるケースも考えられます。協議要否の設定は、契約の柔軟性と安定性を左右するポイントです。

上記のように、物価連動型賃料を導入するには指数の選定・改定方法・頻度・変動幅制限・協議方法など多方面にわたる綿密な制度設計が必要となります。

特に導入初期の現段階では貸主・借主双方の公平性に配慮し、条項内容を丁寧かつ慎重に設計することが肝要だと指摘されています。

インフレ耐性と予見可能性、事務手続きの負担とのバランスを適切にとった制度設計を追求することで、CPI連動条項がオフィス市場に定着していくかが決まってくるでしょう。

不動産業界の動向: CPI連動賃料への取り組み

インフレ局面で賃料の実質目減りを防ぎたい不動産業界は、CPI連動型賃料への関心を高めています。

現在のところ日本で実際に導入された事例はごく少数ながら、大手デベロッパーや外資系企業を中心に契約交渉が各所で進められている状況です。

ここでは、不動産業界における具体的な導入例と、オーナー・投資家側のメリットや課題を整理します。

大手デベロッパーによる物価連動型契約の事例

現時点ではCPI連動条項を導入したオフィス賃貸契約の事例はまだ限定的ですが、日本を代表する大手不動産会社もこの新しい試みに乗り出しています。

野村不動産や三菱地所グループなど不動産大手各社は、インフレ対応型の賃料契約を一部物件で試験的に導入・検討し始めました。

例えば日本経済新聞の報道によれば、三菱地所系の企業などがオフィス賃料を物価に連動させる契約を導入し、市場全体の賃料にも上昇圧力がかかり始めているといいます。

これは、従来は契約期間中に賃料を上げにくかったオフィスビル賃貸で、初めてインフレを賃料転嫁する動きが本格化してきたことを意味します。

もっとも現在はまだ黎明期であり、業界内でも「まずは一部の大型テナントとの間で試験的に導入し様子を見る」といった慎重な姿勢も見受けられます。

今後、大手企業での成功事例が蓄積されれば、中堅ビルや地方のオフィスにも徐々に広がっていくと考えられます。

オーナー・投資家視点のメリットと課題

オーナー・投資家視点のメリット

不動産オーナーや投資家にとって、賃料の物価連動化には大きなメリットがあります。

最大の利点は、前述した通りインフレによる実質収益の目減りを防げることです。

従来、不動産は「インフレに強い資産」とされながらも、実際のオフィス市場ではインフレ分を十分享受できていない側面がありました。

CPI連動賃料を採用すれば、賃料収入が物価上昇に合わせて増加するため、インフレ環境下でも資産価値や利回りを維持しやすくなります。

これは不動産投資信託(J-REIT)など投資家から見ても魅力的で、インフレヘッジ効果の高い物件として評価されるでしょう。

また、建物の維持管理費や修繕費といったランニングコストもインフレで上昇しがちですが、賃料も増えることでそれらコスト上昇分をカバーしやすくなる点もメリットです。

例えば昨今は建物のメンテナンス費用や光熱費も値上がりしていますが、賃料が固定だとオーナーの利益は圧迫されます。

物価連動であればそうした経費増にも対応でき、長期安定経営に寄与すると期待されます。

オーナー・投資家視点の課題やリスク

一方、オーナー側には課題やリスクもあります。

まず、テナントにとって賃料の不確実性が増すため、借り手側の抵抗が予想されます。

日本では賃貸オフィス契約は通常2~5年の定期契約が多く、その間は基本的に賃料不変・更新時のみ改定というのが一般的でした。

物価連動条項を導入すると契約期間中にも賃料が変動するため、テナント企業の予算計画に影響を及ぼします。

そのため、オーナー側はテナントに納得してもらうため上限設定を設ける、あるいは初期賃料をやや低めに設定して物価連動を許容してもらう、といった工夫が必要かもしれません。

また、インフレ率がマイナスに転じた場合(デフレ)に賃料をどうするかという問題もあります。

多くの場合、フロアを0%とすることで賃料の下方硬直性(下げない約束)を設けますが、その場合はオーナー側はインフレ時は得をしてもデフレ時は痛みを被る形になります。

さらに、日本独自の商慣習や法制度との整合性も課題です。

例えば賃料増額請求には借地借家法の規定が絡みますが、物価連動条項がどのように法的に位置付けられるか明確でない部分もあります。

現状では契約自由の範囲で当事者が合意すれば有効ですが、将来的にトラブルがあれば判例や法整備が議論される可能性もあります。

このように、オーナー・投資家にとって物価連動型賃料は魅力的な反面、テナントの合意形成や制度面の不透明さなど注意すべき点も存在します。

それでも、日本の不動産市場がインフレ適応を進めることは構造的な変化であり、不動産業界全体としては避けて通れない流れと言えるでしょう。

建設業界への影響: インフレと賃料の関係

建設業界にとって、インフレによる建築コストの上昇と賃料収入の関係は重大な関心事です。

近年の資材価格高騰・人件費上昇で建設工事費は急騰しましたが、それに見合う賃料上昇が伴わず、開発事業の採算悪化を招いています。

物価連動型賃料はこのミスマッチを是正し、建設プロジェクトの持続的な実施を後押しする可能性があります。

ここでは、建設コストと賃料の現状、および物価連動契約がもたらす展望について考えます。

建設コスト高騰と賃料収入のミスマッチ

まず押さえておきたいのは、近年の建設コスト高騰と賃料収入の間に生じているギャップです。

慢性的な人手不足やウクライナ情勢に伴う資材価格の上昇などを背景に、日本の建設工事費はこの数年で急激に跳ね上がりました。

その結果、多くの開発計画が採算悪化を理由に延期・中止に追い込まれています。

背景には、建設コスト上昇分をオフィス賃料に十分転嫁できず、開発事業者が収益確保に苦戦している実態があります。

ニッセイ基礎研究所の分析によれば、建設費の上昇に見合う賃料上昇が伴っていないため、建設費で実質調整した賃料水準は2013年頃から乖離が拡大し、足元では2000年以降で最も低い水準に落ち込んでいるといいます。

平たく言えば、「建設コストに対して賃料が割安」な状態であり、このままでは新規プロジェクトを進めても利益を確保しにくい状況です。

実際、開発段階で予定していた建設費が契約時より大幅に上昇し、完成後の賃料収入では投資回収が見込めなくなってしまうケースも増えています。

このミスマッチが解消されない限り、民間デベロッパーは慎重姿勢を崩せず、建設需要の先細りにもつながりかねません。

建設業界としては、いかに建設コスト上昇分を適切に事業収支へ反映できるかが喫緊の課題となっているのです。

賃料のインフレ連動が建設業界にもたらす展望

物価連動型賃料の普及は、上記のような賃料とコストのミスマッチ解消に向けた有力な処方箋となり得ます。

賃料がインフレに連動するようになれば、建設コストや管理費の上昇分を将来的な賃料収入でカバーできる見通しが立ちやすくなります。

これはデベロッパーにとって開発プロジェクトの収支予測を改善する効果があります。

実際、岩盤とされた賃料のインフレ適応が進めば、資材価格の高騰や管理費の上昇分を賃料に転嫁しやすくなると指摘されています。

開発事業者にとっては、物価連動型契約を組み込むことで「建て損」を避けられる安心感が生まれ、新規プロジェクトへの投資判断もしやすくなるでしょう。

ひいては、停滞気味だったオフィスビル開発に再び弾みがつき、建設需要の増加につながる可能性があります。

また、建設会社の立場から見ても、発注者であるデベロッパーの採算が改善すればプロジェクト継続性が高まり雇用も安定します。

逆に賃料が固定のまま建設コストだけが上がり続ける状況では、発注者は計画中止や仕様見直しを迫られ、建設会社にも悪影響が及びます。

物価連動型賃料の普及によって不動産収益がインフレ圧力に耐えられるようになれば、適正な利幅を確保した工事受注が増え、下請けを含む建設業界全体の健全なビジネス環境につながるでしょう。

もっとも、テナント企業側の受容度によってはオフィス需要そのものの変化も考えられます。

もし賃料上昇を嫌う企業が増えれば、オフィス面積を縮小したり地方への分散・リモートワーク推進に舵を切る可能性もあります。

その場合、一時的に新築オフィス需要が減るリスクも否定できません。

しかし、総じて見れば適度なインフレ下で経済成長が続く限り、企業は適切な賃料負担の下で事業拡大を図るものと考えられます。

建設業界としては、インフレに強いオフィス需要を捉え、高付加価値の建物を提供していく戦略が求められるでしょう。

具体的には、省エネ性能が高く将来的なランニングコスト低減につながるビルや、働き方の変化に対応した柔軟なオフィス空間の提案など、賃料以上の価値を提供できる建築が選ばれるようになると考えられます。

物価連動型契約はゴールではなく手段の一つに過ぎません。

建設会社・開発会社は、その枠組みを活かしつつ魅力あるプロジェクトを生み出すことで、インフレ時代のビジネスチャンスを掴むことができるでしょう。

テナント企業・一般消費者への影響

賃料の物価連動化は、オフィスを借りるテナント企業や、広く見れば一般消費者にも波及する可能性があります。

企業にとってはオフィス維持コストの増減がこれまで以上に経営に影響しうるため、コスト管理や働き方戦略に変化が生じるでしょう。

また、将来的に商業施設や住宅にも物価連動の概念が広がれば、一般消費者の日常生活コストにも関係してくるかもしれません。

ここでは主にオフィステナント企業への影響と、長期的な社会全体へのインパクトについて考察します。

オフィステナント企業のコスト意識と対応策

物価連動型賃料の導入により、オフィステナント企業の賃料コストに対する意識や対応策にも変化が求められます。

最大の変化は、契約期間中にも賃料が上下しうるため、企業の予算管理においてオフィス賃料が不確定要素になることです。

従来は賃料は固定費として予見可能で、契約更改時(通常2~5年ごと)にのみ見直されるのが一般的でした。

しかし物価連動条項付き契約では例えば毎年賃料が変動し得るため、財務担当者はインフレ率を織り込んだ中長期のコスト予測を立てる必要が出てきます。

インフレ率が高まりそうな局面では、オフィス戦略の見直し(面積縮小や地方拠点の活用など)を検討する企業も出るでしょう。

一方で、賃料が物価に沿って徐々に上がる仕組みは、契約更新時にまとめて大幅値上げを通告されるリスクを減らす面もあります。

ある意味「少しずつなら上昇を受け入れる」という選択肢が広がるとも言えます。

テナントにとって望ましいのは、自社の事業計画に沿った賃料変動の範囲が確保されることです。

そのために、契約時には上昇幅に上限を設ける交渉をしたり、逆に長期でオフィスを利用する代わりに賃料の一定割合を物価連動とする、といった創意工夫も考えられます。

また、インフレが見込まれる場合には固定長期契約よりも短めの契約を選ぶ企業も出てくるでしょう。

あるいは、賃料増を織り込んででも魅力的なオフィス環境を整備し、人材確保・生産性向上につなげる攻めの投資と考える企業もいるかもしれません。

いずれにせよ、オフィステナント企業には賃料変動リスクのマネジメント**が新たな経営課題として加わることになります。

テナント企業の従業員の視点でも、間接的な影響があります。

例えば賃料コスト増が企業収益を圧迫すれば、人件費や設備投資に割けるリソースが減る可能性があります。

逆に賃料負担が適正にコントロールされていれば、オフィス環境の改善(立地や快適性向上)に投資する余裕が生まれるかもしれません。

働き方改革が進む中で、社員がオフィスに求める価値と賃料コストのバランスを考えることも重要になるでしょう。

テナント企業は、自社にとって最適なオフィス利用形態(専有オフィス縮小+コワーキング併用、完全フリーアドレス化等)を模索し、賃料コストに見合う生産性向上を実現することが求められます。

賃料の物価連動化は単なるコスト増ではなく、企業にオフィス戦略の再考を促す契機ともなるのです。

一般消費者・社会への波及効果

オフィス賃料の物価連動化という一見専門的なトピックも、長期的には一般消費者や社会経済全体に影響を与える可能性があります。

まず考えられるのは、インフレ時代における日本経済の構造変化です。

不動産賃料は従来あまり変動しない項目でしたが、それが物価に応じて上昇するようになることは、経済全体で見ても新たなインフレ波及経路となり得ます。

例えばオフィスや店舗の賃料が上がれば、そのテナント企業が提供する商品の価格やサービス料金にも転嫁されるかもしれません。

そうなれば最終的に一般消費者が負担するコストも上昇し、消費者物価全体の押し上げ要因となります。

実際、欧米では住宅家賃や商業施設賃料がインフレ連動で上がり続け、それが消費者物価指数を押し上げる一因となっています。

日本でも今後、オフィスに限らず商業テナント料や住宅の家賃などに物価連動の考え方が広まれば、私たちの生活コストにも影響が及ぶでしょう。

特に住宅分野で物価連動型家賃が導入されれば、家賃の値上がりが一般家計を直接圧迫する可能性があります。

インフレ時代への備えと今後の展望

日本の不動産市場、とりわけオフィス賃料の世界にもインフレ対応の波が押し寄せつつあります。

物価連動型(CPI連動) 賃料の導入は、長年デフレ慣行に慣れ親しんだ業界にとって大きなパラダイムシフトです。

本稿で見てきたように、その背景には日本経済のインフレ転換と賃料の実質価値低下という課題があり、不動産オーナー・建設事業者・テナント企業それぞれの立場でメリットと懸念が存在します。

重要なのは、こうした変化に対して各主体が適応策を講じることです。

不動産業界は適正かつ公平な制度設計で市場の信頼を確保し、建設業界はインフレに強い高付加価値の建物提供で需要を喚起し、テナント企業はコスト上昇を織り込んだ経営計画や働き方の工夫で乗り越えていくことが求められていくでしょう。

有料職業紹介(許可番号:13-ユ-316606)の厚生労働大臣許可を受けている株式会社ゼネラルリンクキャリアが運営しています。

ゼネラルリンクに相談を

-建設業ニュース

© 2025 施工王 Powered by AFFINGER5