目次
2025年8月29日、仮設資材メーカーの信和株式会社(東証3447)が、
型枠・土木工事を手掛ける海津建設株式会社(名古屋市)を完全子会社化すると発表しました。
信和グループの主力である仮設足場事業に海津建設のノウハウを取り込むことで、建設現場へのサービス提供力強化を狙った動きです。
本稿では、この買収の概要と背景、狙い、そして建設業界への影響について詳しく解説します。
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1. 信和による海津建設買収の概要
信和が発表した海津建設買収の基本情報を整理します。
買収のスキームや取得株式数、スケジュールなど、今回のM&Aの全体像を押さえておきましょう。
買収の基本情報とスキーム
買収発表日
2025年8月29日、信和は取締役会において海津建設の全株式取得を決議。
取得価額は非公表ですが、第三者評価機関の算定を参考に決定されています。
公表されていない理由は、売り手個人のプライバシーに配慮したためです。
取得持株比率
信和は海津建設の発行株式64,000株すべてを取得し、持株比率100%の完全子会社化を行います。
買収前は資本関係が一切なかったため、今回の取得で海津建設は信和グループ傘下に入ることになります。
買収手法
本件は株式譲渡による友好的買収です。
東証スタンダード上場企業である信和が非上場の海津建設を対象とするスモールM&Aとなります。
なお、買収総額は信和連結純資産の15%未満に留まり、信和の財務に与える影響は限定的と説明されています。

取得スケジュールと今後の手続き
契約・完了時期
2025年9月初旬に株式譲渡契約を締結し、2025年10月1日付で株式の引渡しを実行する予定です。
すでに両社間で基本合意がなされており、手続きは円滑に進む見込みです。
経営体制
買収後も海津建設は法人格を維持し、信和の完全子会社として存続します。
現段階で海津建設の社名変更や人員整理等は発表されておらず、既存事業を継続しつつ信和グループとの連携を図っていくものとみられます。
信和は2026年3月期第3四半期から海津建設を連結子会社として財務諸表に取り込む計画です。
2. 買収の背景と狙い (Background & Purpose)
信和が海津建設買収に踏み切った背景には、自社の成長戦略と業界課題への対応があります。
仮設足場と型枠工事の組み合わせによるサービス拡充や、人材不足という業界共通の課題解決など、本件M&Aの狙いを紐解きます。
仮設足場×型枠工事のシナジーによるサービス拡充
成長戦略としてのM&A
信和は2024年に発表した中期経営計画(2025年3月期~2029年3月期)で、「既存事業とのシナジー創出が期待できるM&Aを推進し、新たな事業の柱を育成する」ことを基本戦略に掲げています。
今回の海津建設買収もこの方針に沿ったもので、仮設足場事業と型枠・土木工事との組み合わせによるサービス拡大が目的です。
仮設足場の製造・施工で培った信和のリソースに、海津建設の型枠工事の高度な技術力を取り込むことで、顧客(ゼネコンや建設現場)に対し一体的で幅広いサービス提供が可能になると期待されています。
一括受注による競争力強化
仮設足場と型枠工事は建設現場で密接に関連する工程です。
従来は別々の業者が担当することも多い領域ですが、両社の統合により足場架設から型枠設置・コンクリート打設までを一括対応できる体制が整います。
これにより、施工効率の向上や調整コストの削減、工期短縮などのメリットが生まれ、ゼネコンなど発注者にとって使い勝手の良いパートナーとなるでしょう。
信和側も提供メニュー拡大によって案件獲得機会が増え、競争力強化につながると見込んでいます。
人材不足への対応と地域連携
人材育成ノウハウの共有
建設業界全体で技能労働者の高齢化や若手不足が深刻な課題となる中、信和はグループ内での人材育成ノウハウを強みとしています。
今回の買収でも、「建設業界共通の課題である人材確保・育成において、信和グループのノウハウ共有によって両社の持続的成長と業界課題の解決に貢献できる」と述べられており、人材面でのシナジー創出も狙いの一つです。
具体的には、信和が培ってきた安全教育や技能研修の仕組みを海津建設に導入し、型枠・土木分野の担い手育成を加速することが考えられます。
両社の従業員にとってもスキルアップやキャリアの幅が広がる機会となるでしょう。
東海地域での地盤強
信和は本社を岐阜県海津市に置き、東海地方に強い地盤を持つ企業です。
一方の海津建設も社名に「海津」と冠していますが、本社は愛知県名古屋市にあり、主に東海エリアで事業展開してきました。
つまり両社は活動地域が重なる関係にあります。
この地域的な共通基盤を活かし、経営資源を連携させることで新たな価値創造を目指すとしています。
例えば、両社の顧客基盤や協力会社ネットワークを共有し合うことで、東海圏での営業力・施工力がー段と高まる可能性があります。
地元密着で半世紀以上実績を積んできた海津建設を取り込むことで、信和は地域社会での存在感を強めつつ事業拡大を図る狙いがあります。
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3. 信和と海津建設の企業概要
買収当事者である信和株式会社と海津建設株式会社の基本情報を整理します。
事業内容や規模感を把握することで、本件M&Aの位置付けや両社の役割分担が明確になります。
信和株式会社: 仮設資材メーカーの概要
会社概要
信和株式会社は、岐阜県海津市に本社を置く仮設資材メーカーです。
2014年設立(実質的な事業開始は1979年)で、2018年に東証スタンダード市場および名証プレミア市場に上場しました。
主力事業は建設現場向け仮設足場の製造・販売・レンタルであり、独自開発の次世代足場など製品力に定評があります。
また倉庫や工場で使う物流機器の製造販売も手掛けており、幅広い仮設・物流分野で事業を展開しています。
代表取締役社長は則武栗夫氏。
規模感
連結売上高は約160億円(2022年3月期)に達し、従業員数は連結で259名(2025年3月現在)とされています。
近年はM&Aを通じた事業拡大に積極的で、2024年3月にはヤグミグループの仮設施工会社CTRを子会社化、2025年5月にはアルミ加工の凰金属工業を子会社化するなど、既存事業と相乗効果の高い企業を取り込んできました。
今回の海津建設買収もその延長線上に位置付けられます。
海津建設株式会社: 地域密着の型枠・土木工事業者
会社概要
海津建設株式会社は1967年設立の老舗施工業者です。
本社は愛知県名古屋市西区に構え、半世紀以上にわたり建築物の型枠工事や土木工事の請負を主軸事業として地域社会に貢献してきました。
高い技術力と確実な工事品質で厚い信頼を得ており、中部地方の建設プロジェクトに多数の実績があります。
代表取締役は近藤正氏。
同社は非上場のオーナー企業で、株式は創業家と思われる個人株主が保有していました。
規模感
直近の業績 (2025年6月期)では売上高23億2,000万円、営業利益4,800万円、純資産20億2,000万円を計上しています。
総資産規模は40億円前後で推移しており、自己資本比率が高く財務基盤は堅実です。
従業員数は非公開ですが、売上規模から推測すると数十名規模の中小企業と思われます。
長年にわたり名古屋市や岐阜県など東海エリアの公共・民間工事に携わってきたことで、地域に根差したネットワークとノウハウを蓄積しています。
以下の表に信和と海津建設の主要項目をまとめます。
項目 | 信和株式会社 | 海津建設株式会社 |
---|---|---|
本社所在地 | 岐阜県海津市 | 愛知県名古屋市 |
設立 | 2014年(事業開始1979年) | 1967年 |
上場区分 | 東証スタンダード・名証プレミア (コード: 3447) | 未上場(オーナー企業) |
主な事業 | 仮設足場の製造・販売・レンタル、物流機器製造販売 | 建築の型枠工事、土木工事の請負・設計施工 |
売上規模 | 約160億円(2022年3月期・連結) | 約23億円(2025年6月期・単体) |
従業員数 | 259名(2025年3月、連結) | 非公開(推定50~100名規模) |
表: 信和と海津建設の基本比較
このように、信和は仮設資材のメーカー兼施工会社として全国展開する中堅企業であり、海津建設は東海地方の現場施工に強みを持つ中小企業という位置付けです。
信和にとって海津建設の買収は、自社にはなかった型枠・土木の施工部門をグループ内に取り込む意味合いがあります。
一方、海津建設にとっても上場企業グループの一員となることで経営基盤の強化や案件受注の拡大が期待できるでしょう。
4. 建設業界への影響 (Impact on the Construction Industry)
信和による海津建設買収は、建設業界にどのような影響を与えるでしょうか。
サービスー体化による効率化や業界再編の動き、人材への波及効果など、今回のM&Aを契機に考えられる業界へのインパクトを整理します。
仮設・型枠一体化による施工効率と品質向上
ワンストップサービスの波及
仮設足場と型枠工事を一括提供できる体制は、他の建設関連企業にも一石を投じる可能性があります。
例えば、大手ゼネコンや建設主催者側から見ると、一社にまとめて発注することで調達の手間やコストを削減でき、施工計画の調整も容易になる利点があります。
信和グループが提案するワンストップサービスが成果を上げれば、同業他社も足場+型枠+aといった周辺分野の提携・統合を検討する動きが出てくるかもしれません。
実際、建設業界では専門工事会社同士の協業や合併により、複数工程をまとめて請け負うケースも増えつつあります。
今回の買収はそうした施工効率化の潮流を後押しするものと言えるでしょう。
安全・品質管理の強化
足場と型枠が一体化することで、現場の安全管理や品質管理も一元化しやすくなります。
従来は足場業者と型枠業者で別々に行っていた安全対策(墜落防止措置や型枠支保工の点検等)を統合チームで行えるため、施工ミスやヒヤリハットの減少が期待できます。
結果的に現場全体の安全性向上と工事品質の安定につながり、発注者の信頼性向上にも寄与するでしょう。
このようなメリットが業界内で認知されれば、「仮設・型枠一括施工」は新たな付加価値サービスとして定着し、建設現場の生産性改革の一助となる可能性があります。
中堅建設企業のM&A加速と人材への波及
業界再編と中堅企業の生き残り
建設業界では近年、大型再編から地域中堅企業のM&Aまで、幅広い層で再編が活発化しています。
直近の例では、スーパーゼネコンの大成建設が海洋土木大手の東洋建設を約1600億円で買収すると発表し、「過去最大のゼネコン再編」として業界を賑わせました。
こうした動きは大手だけでなく、中堅・中小企業でも顕在化しています。
背景には建設投資の伸び悩みや将来的な市場縮小に備え、経営基盤強化や事業領域拡大を図る生き残り策としてM&Aを活用する流れがあります。
信和による海津建設買収も、ニッチ分野を取り込んでサービス幅を広げる戦略の一環であり、同様の動機による中堅企業間のM&Aが今後も加速する可能性があります。
特に専門工事業者の世界では、高齢化したオーナーの後継者問題も深刻なため、親和性の高い企業同士の統合で事業継続を図るケースが増えていくと考えられます。
人材市場への影響
今回の統合によって、信和グループ全体で人材の融通や配置転換が行いやすくなります。
例えば、信和の足場技能員が型枠施工の技能も身につけたり、海津建設の現場監督が信和のプロジェクトに参加したりといったグループ内での人材交流が進むでしょう。
これは従業員に多能工化の機会を提供し、キャリアアップにつながります。
一方、業界全体で見れば、大手・中堅による中小企業の吸収が進むことで人材が大きな企業グループに集約される傾向が強まります。
ポジティブには技術者の待遇改善や教育投資が進む可能性がありますが、ネガティブには独立系の中小企業が減少し転職先の選択肢が狭まる恐れも指摘されています。
しかし総じて、働き手にとっては安定した経営基盤の企業に属して技能を伸ばせる機会が増えるとも言え、業界の魅力向上につながることが期待されます。
5. 今後の展望 (Future Outlook)
信和と海津建設の統合が今後どのように展開していくのか、見通しを探ります。
シナジーを最大化するための課題や、信和グループのさらなる戦略、そして業界全体の今後の動向について考察します。
シナジー実現に向けた課題と期待
統合効果を引き出す鍵
今回の買収効果を最大限発揮するには、両社の組織文化や業務プロセスの円滑な統合が欠かせません。
具体的には、安全基準の共有や品質管理手法の統一、営業・施工管理部門の連携強化などクリアすべき実務課題があります。
特に現場施工会社である海津建設は地域に根差した柔軟な企業文化を持つ一方、信和は上場企業としての規律やIFRS会計など大企業的な側面があります。
このギャップを埋めつつ、お互いの強みを活かした新体制を築けるかが重要です。
また、人材面でも足場技術者と型枠技術者がお互いのスキルを学ぶ場を設けるなど、社内教育を充実させることが求められるでしょう。
信和は既にグループ内で研修制度を整えているため、それを海津建設にも展開することで技能者の底上げと定着率向上に寄与すると期待されます。
統合初期は投資コストや調整負荷がかかるものの、中長期的には受注案件の増加や施工効率向上による利益貢献が見込まれています。
新たなサービス展開
シナジーの追求により、将来的には新サービスの創出も考えられます。
例えば、仮設足場と型枠工事に加えて、両社のネットワークを活かした施工現場の一括ソリューション提案(仮設計画の立案から資材提供、施工、人材派遣まで)など総合力を売りにできるでしょう。
さらには、DX(デジタルトランスフォーメーション)の領域で協力し、足場組立や型枠施工の効率を高めるデジタルツールの共同開発・導入なども展望できます。
信和はこれまでも製品開発力を発揮してきた企業だけに、施工ノウハウ豊富な海津建設とのコラボで技術革新が生まれる可能性もあります。
こうした新展開が実現すれば、国内のみならず将来的には海外市場へのサービス輸出といった道も開け、グローバル展開への足掛かりとなるかもしれません。
信和グループの成長戦略と業界の行方
さらなるM&Aの可能性
信和は今後も中期経営計画に沿って、既存事業と親和性の高い分野への投資を続けると見られます。
実際、この数年で仮設資材、アルミ加工、施工会社と次々に買収を行っており、グループの事業領域を拡大しています。
考えられる次の一手としては、ICTを活用した施工管理分野や建設副産物のリサイクル分野など、足場・型枠事業とシナジーを発揮できる周辺領域への進出もあり得るでしょう。
信和グループの成長戦略が順調に進めば、売上高は数年内に200億円規模へとステップアップし、中堅建設関連企業グループとして存在感を高めていく可能性があります。
業界全体への示唆
建設業界では、技能者不足や働き方改革への対応など構造的課題が山積しています。
その解決策の一つとして、企業間の統合・提携によるリソース集中と効率化は有効であることを今回のケースは示しています。
大企業による中小企業の支援・吸収は、技術や人材を次世代に継承する上でも重要です。
今後、他地域でも類似の動きが進めば、業界再編が一段と進み、新たな企業グループが誕生するでしょう。
一方、各社には自社の強みを見極めた戦略的M&Aが求められます。
闇雲な多角化はリスクを伴うため、信和のように本業を軸にした関連分野でのシナジー重視の投資が成功モデルとして注目されます。
建設業界の未来を考える上で、企業規模の垣根を超えた連携とイノベーション創出がカギとなることを、本件は示唆していると言えるでしょう。
6. まとめ (Conclusion)
まとめ
信和による海津建設の買収は、仮設資材メーカーと専門工事業者という異なる強みを持つ企業同士の統合により、新たな価値創出を目指す動きです。
仮設足場と型枠・土木工事のノウハウ融合によって、建設現場へのサービス提供がより包括的かつ効率的になる点は大きな注目ポイントです。
両社の地盤である東海地域においては、一括施工体制による受注拡大や人材育成の促進など、地域建設業の活性化につながる効果も期待されます。
また、本件は中堅規模の建設関連企業が直面する課題に対し、M&Aを通じて解決を図る一つの成功例となる可能性があります。
業界全体で慢性的な人手不足や事業承継問題が叫ばれる中、こうした戦略的提携によるシナジー追求は今後ますます重要性を増すでしょう。
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