目次
大林組の株価が直近で大きく上昇し、上場来高値を更新しました。
その理由としては、同社の業績上方修正や自社株買いといった企業側のニュースだけでなく、建設業界全体の動向や市場環境など様々な要因が存在します。
本記事では「施工王」の視点から、この株価上昇の理由を掘り下げて解説します。
さらに、その動きが建設業界にどのような影響をもたらすのか、そして業界の働き手や今後の展望にとって何を意味するのかを考察します。
大林組の株価上昇の要因
2025年2月10日、大林組は2025年3月期の通期業績予想の大幅な上方修正と自己株式取得(自社株買い)の実施を発表しました。
具体的には、売上高予想を従来より1,000億円増の2兆6,100億円に、当期純利益予想も410億円増の1,280億円へと引き上げています(前年同期比で+70.5%の大幅増益見通し)。
また、下期(2024年10月~2025年3月)の連結経常利益見通しも従来の482億円から932億円へとほぼ倍増させる水準となりました。
これらの数字が示すように、業績見通しの改善幅が極めて大きかったことが投資家の好感を得る事に繋がりました。
要因1:国内外の事業収益の向上
業績予想を引き上げられた理由としては、国内外の事業で収益性が向上したことが挙げられます。
大林組は国内建設事業において手持ち工事(受注残)の進捗が順調で、採算性の良い案件を選別して受注する戦略が奏功し、完成工事高(売上高)および完成工事総利益が増加しました。
さらに、海外の建設子会社でも採算性の改善や円安による為替換算の追い風により、業績が向上しています。
このような本業の好調に加え、政策保有株式の売却が進み特別利益が増加したことも利益押し上げに寄与しました。
つまり、本業の建設事業で稼ぐ力が高まったうえ、保有資産の売却益なども取り込んだことで、会社側が大幅な利益予想の修正を行ったのです。
要因2:自社株買いによる株主還元の強化
同時に発表された自社株買いも株価押し上げの大きな要因でした。
大林組は発行済み株式の2.8%(自己株式を除く)に当たる上限2,000万株・総額300億円にも及ぶ自己株式取得枠を設定し、2025年2月12日から6月30日までの期間で実施すると表明しました。
自社株買いは市場に出回る株式数を減らし、一株当たり価値を高める施策であり、株主還元の強化として投資家に歓迎されます。
この発表を受けて株式市場は即座に反応し、発表直後から大林組株は急伸しました。2月10日の取引では前日比122円高の2,204円まで買われ、昨年12月に記録したそれまでの上場来高値2,169.5円を大きく更新しています。
まとめると、(1) 業績見通しの大幅な上方修正による企業価値の向上期待と、(2) 大規模な自社株買い発表による株主還元強化への期待…この二点が重なり、直近の大林組株価上昇を直接的に後押ししたのです。
参考:四季報「大林組が最高値、25年3月期予想増額と自己株取得」
参考:yahooファイナンス「大林組が上場来高値更新、今期業績予想の上方修正と上限2.8%の自社株買いを材料視」
参考:yahooファイナンス「【決算速報】大林組、今期経常を46%上方修正」
参考:kabutan「大林組、今期経常を46%上方修正」
- 大手求人サイトで全国トップクラスに輝いたアドバイザーが在籍
- 年収1000万円以上になった方も
- 年収350万円以上の大幅UP事例もあり
- 業界特化で「分かっている」提案。企業知識が段違い
- 休日や夜間でも専属アドバイザーが対応
株価に影響を与えた外部要因
大林組自身の好材料に加え、外部環境の追い風も株価上昇を支える重要な要因となりました。
企業個別の努力だけでなく、業界や市場の状況が好転していたことが、今回の株価上昇をより大きなものにしたと考えられます。
主な外部要因として、以下が挙げられます。
株式市場の動向・制度改革
株式市場全体で日本企業の株価見直し機運が高まっています。
東京証券取引所が2023年に「資本コストや株価を意識した経営」を上場企業に要請し、特にPBR(株価純資産倍率)が1倍割れの企業に対して事実上の圧力をかけたことを受け、増配や自社株買いなど株価向上策が各社で相次ぎました。
建設業も例外ではなく、大林組を含む多くの企業がこの流れに沿って資本政策を見直しており、今回の自社株買い発表もその一環といえます。
市場ではそうした施策を歓迎するムードがあり、株価押上げの土壌となりました。
参考:ザイ・オンライン「大林組が大幅増配! 建設株に関心/悪い評価の投信どうする?」
業界全体の割安感(バリュエーション改善)
建設業界は従来、株式市場で割安に放置されがちなセクターでした。
実際、上場建設会社の約4分の3がPBR1倍割れ(解散価値を下回る株価)というデータもあり、こうした「宝の持ち腐れ」状態に着目した国内外の投資家が近年増えています。
著名投資家やアクティビスト(物言う株主)もゼネコン各社に注目し、大林組や清水建設などに株式を買い増して経営改革を促す動きが出てきました。
このような投資家からの圧力・期待は、企業側の収益力向上や株主還元策の実施を後押しし、結果的に株価にもポジティブに作用しています。
参考:ダイヤモンド・オンライン「ゼネコン・建設182社「PBRワーストランキング」、4分の3が1倍割れ」
参考:ダイヤモンド・オンライン「大林組、清水建設も標的に!「アクティビスト天国」の建設業界で次に狙われるゼネコン・サブコン5社を大予想」
建設需要の追い風
マクロ環境として、建設需要が底堅く推移していることも重要です。
日本国内では、2025年の大阪・関西万博に向けた工事が佳境を迎えており、また近年頻発した自然災害からの復興需要(例:能登半島地震の復興)もあって、建設プロジェクト数は高水準にあります。
これら大型イベントやインフラ復旧・強靭化の需要により、建設業界は比較的明るい需要見通しが描ける状況です。
こうした実需の裏付けがあることで、投資家も建設株を安心して買いやすくなります。
また、日本経済全体がコロナ禍から持ち直し企業業績が好調なこと、日銀の金融政策も直近まで緩和的であったことから市場の地合いが良かった点も見逃せません。
これらの要因が相まって、建設株には「出遅れた割安優良株」として資金が流入しやすい土壌が形成されていました。
参考:四季報「株価「反転態勢」へ、建設業界への人材派遣で期待大の銘柄」
他社の大手建設企業との株価比較
大林組の株価上昇は目覚ましいものですが、同時期に他のスーパーゼネコン各社も軒並み株価を上昇させており、業界全体で追随する動きが見られます。
大林組だけが特異的に評価されたわけではなく、建設大手各社の業績回復と株主還元強化が相まって、セクター全体に投資マネーが向かっている状況です。
清水建設の直近の株価
清水建設は2023年度下期の業績予想を増額修正し、売上高見通しを1兆8,000億円から1兆8,600億円へ、当期純利益見通しも400億円から600億円へと引き上げました(前年同期比で3.5倍の大幅増益)。
さらに自己株買いの実施も発表した結果、発表後に株価が急騰し、一時上昇率が10%近くに達する場面も見られました。
このように清水建設も大林組同様、業績上方修正+自社株買いというセットで株価が評価されています。
参考:四季報「清水建設が後場に急騰、25年3月期予想増額で自己株買いも」
鹿島建設の直近の株価
鹿島建設も同様に、2024年末から2025年初にかけて株価の上昇が目立ちました。
海外での物流倉庫開発事業が好調であったことなどから、通期の営業利益見通しを1,040億円→1,095億円へと上方修正し、これを材料視した買いによって株価が大幅高となりました。
その他、中堅ゼネコンや専門工事会社でも株価上昇が見られ、建設セクター全体が活気づいています。
建設大手各社は好調傾向
このように建設大手各社の株価は軒並み好調で、セクター全体で「ゼネコン株見直し」の動きが起きていると言えるでしょう。
実際、2025年3月期第2四半期(2024年4~9月)の連結決算では、上場大手4社(鹿島・大林組・大成建設・清水建設)のうち鹿島・大林組・大成建設の3社で売上高が過去最高を更新するなど、業績面でも追い風が吹いていました。
清水建設も特殊要因を除けば本業は堅調であり、各社とも収益力が向上しています。
この業績改善が株価にも反映され、結果として「ゼネコン株」は広く注目を集める存在となっています。
参考:建設通信新聞「大手ゼネコン4社第2四半期決算/3社が売上高過去最高/低採算案件は底打ち」
株価上昇の背景にある大林組の企業戦略
大林組の株価上昇を理解するには、ここ数年の同社の戦略・事業展開を振り返ることも重要です。
短期的なニュースだけでなく、近年大林組が進めてきた事業の方向性が、今回の好業績・株価評価の土台にあります。
国内外での多角的な事業展開
まず、大林組は中期経営計画において事業ポートフォリオの多角化・グローバル展開を掲げており、「国内建設事業」を中核に、以下の5つの分野でグローバルに多様な事業を展開しています。
- 国内建設事業(国内での建築・土木請負)
- 海外建設事業(海外での建築・土木請負)
- 開発事業(都市開発や不動産開発、自社でのプロジェクト推進)
- グリーンエネルギー事業(再生可能エネルギー関連の事業)
- 新領域ビジネス(新技術・新分野への取り組み)
大林組は早くから海外市場に目を向け、東南アジアや北米での事業拡大に積極的でした。
2011年以降はクロスボーダーM&A(企業買収)を通じて海外事業を短期間で拡大し、現在では売上高に占める海外事業比率が約25%に達しています。
大林組は国内外での多角的な事業展開と選別受注による収益力の強化、そして新分野・技術への果敢な挑戦を進めてきました。
これら近年の企業戦略が実を結び、2024年度には受注高が前期比8.3%増の1兆5,751億円に達するなど業容が拡大し、利益面でも大幅な改善を遂げています。
その結果として市場からの評価も高まり、今回の株価上昇へと繋がったと言えるでしょう。
大林組のケースは、建設企業が従来の請負ビジネスにとどまらず、自ら変革することで新たな価値を生み出す好例であり、他社にとっても参考になるモデルとなっています。
参考:大林組「グループ概要」
大林組の受注状況と今後の展望
大林組の現在の受注状況および今後の事業展望についても触れておきます。
足元の好業績が一時的なものなのか、継続的な成長が見込めるのかを判断するうえで、受注残高や将来のプロジェクト見通しは重要な指標です。
前述の通り、大林組の2024年3月期(前期)は受注高1兆5,751億円(前期比+8.3%)と堅調で、建築・土木ともにバランス良く受注を伸ばしました。
この結果、2024年3月末時点の手持ち工事高(受注残)も前年度末から増加しており、今後の売上に寄与するバックログが厚みを増しています。
受注残は具体的な金額は公表ベースでも相当な規模(数兆円規模)にのぼり、今後数年間は現在抱えるプロジェクトだけでも安定した売上が見込める状況です。
実際、会社側は2025年3月期の通期連結売上高予想を2兆6,100億円(前期比+12.3%)とし、過去最高水準の売上を見込んでいます
これは、現在進行中のプロジェクト群が順調に消化・売上計上されていく前提に立っており、受注残の充実ぶりを裏付けています。
参考:大林組「2024年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」
参考:yahooファイナンス「大林組が上場来高値更新、今期業績予想の上方修正と上限2.8%の自社株買いを材料視」
もっとも、将来的な不透明要因も存在します。
国内では2025年問題(大量退職時代)により公共事業予算や民間投資の動向が変化する可能性があります。
万博が終わった後、一時的に関西の建設需要が反動減する懸念もあります。
ただ、政府は国土強靭化計画のもとで防災・減災のためのインフラ投資を継続する方針を示しており、中長期的には老朽インフラ更新需要が一定量見込まれるため、公共分野が極端に縮小する可能性は低いでしょう。
民間分野でも、DXや脱炭素の流れで新たな施設需要が生まれており、たとえばデータセンターやEV電池工場、洋上風力関連施設といった新産業支える建設が今後の市場を形成する可能性があります。
総合的に見ると、大林組の受注環境と今後の展望は明るいと言えます。
\ 誰かに聞いてほしい悩みはありませんか/
建設業界は今後も狙い目か
近年の建設株は市場で脚光を浴びていますが、果たしてこのトレンドは今後も続くのか、投資妙味はまだあるのかという点は投資家にとって関心事でしょう。
建設株の今後の展望とリスクについて考えてみます。
建設株の今後の展望
一連のゼネコン株高を受けてもなお、多くの建設企業は依然割安水準にあると見る向きがあります。
実際、2023年時点で上場建設会社の7割超がPBR1倍未満というデータが示すように、解散価値(純資産)を下回る株価の企業が多数存在しました。
大林組自身も株価が直近数年で大きく上昇したとはいえ、まだまだ株主資本に比して割安との指摘があります。
例えば大林組株は2019年から2024年11月までの5年間で約1.8倍に上昇しましたが、それでも配当利回りは3.7%程度と依然高水準で、投資妙味が残っているとの分析があります。
高い配当利回りは株価が上がってもなお、利益や資本に対して株価が抑え目であることを示唆します。
参考:ダイヤモンド・オンライン「ゼネコン・建設182社「PBRワーストランキング」、4分の3が1倍割れ」
参考:Finasee(フィナシー)「大林組【1802】はなぜ買われる? 上場来高値更新で株価は5年で1.8倍 インフレで苦戦も利益は回復基調 配当利回り3.7%も魅力」
清水建設や鹿島建設など他の大手も同様に、低PBR・高配当利回りの水準からスタートして上昇した経緯があり、「まだ割安な余地を多少残しつつ上昇してきた」という状況です。
ゆえに、業績がこのまま好調を維持し、経営改革も継続するなら、建設株は依然として“狙い目”と考える投資家は多いでしょう。
また、日本市場全体で株主還元や資本効率重視の機運が高まる中、ゼネコン各社は大きな潜在力を持っています。
豊富な現預金や不動産などの含み資産を抱えながら、これまで保守的経営でそれらを温存してきた企業が多いため、何らかの形で資本を有効活用すれば株主価値を高める余地が大きいからです。
昨今の大林組のように自社株買いや配当性向引き上げに動く企業が増えれば、マーケットはこれをポジティブに評価しやすく、株価の底上げが期待できます。
さらに、アクティビストファンドなどがゼネコン株を物色している動きも続いており、実際に大林組や清水建設が標的となって議決権行使や提言を受けるケースも出てきました。
このようなプレッシャーが働くことで経営陣も株価向上に本腰を入れざるを得ず、結果として株主にプラスとなる施策が次々打ち出されるという好循環が生まれつつあります。
参考:ダイヤモンド・オンライン「大林組、清水建設も標的に!「アクティビスト天国」の建設業界で次に狙われるゼネコン・サブコン5社を大予想」
建設株のリスク
リスク要因も冷静に見ておく必要があります。
建設株のリスクについては大きく2つの要素があります。
景気循環業種
まず、建設業はどうしても景気や政策の影響を強く受ける景気循環業種です。
現在は公共事業も民間投資も堅調ですが、もし日本経済が景気後退局面に入ったり、金利上昇で不動産投資が冷え込んだりすれば、新規受注が減少し業績が伸び悩む可能性があります。
また大型案件の採算リスクも常につきまといます。
先述したように、一つのプロジェクトで数百億円規模の損失が発生することもあり得ます。
例えば大成建設は東京都世田谷区の本庁舎建替工事(いわゆる「爆弾案件」)で大幅な工期遅延と200億円超の損失計上を余儀なくされたケースがありました。
このように、どれだけ好調な企業でも一発の不採算案件で利益が吹き飛ぶリスクがある点は、投資家にとって不安材料です。
人件費や資材費の上昇リスク
加えて、人件費や資材費の上昇リスクも見逃せません。
近年は人手不足による人件費高騰や建設資材価格の上昇が企業収益を圧迫してきました。
足元では採算改善していますが、インフレが再燃したり調達コストが上振れした場合、せっかく受注した工事でも利益が出ない事態になりかねません。
各社が設計変更でコスト転嫁を図るなど対策を講じていますが、クライアントとの価格交渉力も企業によって差があります。
景気が悪化すると価格協議もままならなくなるでしょう。
とはいえ、総合的に見れば建設株には追い風の要素が勝っているように思われます。
需要が底堅く、企業行動も株主重視に変わり、マーケットの評価指標もまだ割高感がないとなれば、長期投資の観点からも魅力的です。
特に手持ち工事が潤沢で中期計画が明確な企業、技術力やブランド力で他社と差別化できている企業などは、今後も安定した利益を生み株主還元を続けられる可能性が高いでしょう。
建設株がかつてのような低迷セクターではなく、「安定高配当かつ適度な成長が見込めるセクター」へ脱皮できるかが問われるところですが、現状はその方向に舵を切りつつあるように見えます。
総合的に見たら建設株は「狙い目」
結論として、建設株は中長期的に十分狙い目と考えられます。
ただし、投資にあたっては各社の受注状況や案件ポートフォリオ、リスク管理体制などをしっかり見極めることが重要でしょう。
リスクを適切にコントロールし、かつ株主還元にも積極的な企業が、これからの時代に市場から選好されていくはずです。
業界全体が変革期を迎える中、株式市場においても「選別買い」が進むと予想されます。
得てして同業種の中でも明暗が分かれるものですから、投資家目線ではその見極め力が問われるでしょう。
大林組に関わらず建設株全体が転換期
この記事では大林組の株価上昇ニュースからその理由について触れてきました。
大林組自体の変化も大きいですが、建設業界が今大きな転換期にあることが浮き彫りになりました。
実際、清水建設や大成建設、鹿島建設といった他の大手ゼネコンも軒並み株価を上昇させ、過去最高値や数十年ぶりの高値を更新する動きが見られました。
今回の株価上昇劇から得られる示唆は、「変化を恐れず改革を断行すれば、市場も人もついてくる」ということではないでしょうか。
大林組が見せた大胆な経営判断と実行力は、多くの建設企業にとって刺激となりました。
大林組の株価上昇は一つの象徴的な出来事に過ぎませんが、それをきっかけに業界が活性化し、発展していくことを願っています。
有料職業紹介(許可番号:13-ユ-316606)の厚生労働大臣許可を受けている株式会社ゼネラルリンクキャリアが運営しています。