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大和ハウス工業が進める事業戦略の大転換が、建設業界に大きな波紋を広げています。
国内での戸建て住宅需要が縮小傾向にある中、同社は長年の主力であった戸建て事業から徐々に軸足を移し、多角的な事業展開に乗り出しています。
その象徴が、住宅以外の分野(物流施設やデータセンター等)への投資拡大と、成長市場である米国への経営資源シフトです。
国内建設業界で働く人々や転職を検討する人々にとって、この動きは業界構造の変化と今後のキャリア戦略を考える重要な手がかりとなるでしょう。
では、大和ハウスはなぜ戸建て住宅から脱却を図り、米国事業を多角化しようとしているのか。その背景と狙いを探ります。
大和ハウスの戸建て住宅事業の変化
ここでは、大和ハウスの戸建て住宅事業の変化の理由に関して触れていきます。
戸建ては売れにくい時代に
まず、日本国内の戸建て住宅市場の現状を見てみます。
人口減少と少子高齢化に伴い、新設住宅の需要は長期的に減少傾向にあります。
実際、2023年の注文住宅着工戸数は約22万戸と前年から11%以上減少し、1959年以来約64年ぶりの低水準に落ち込みました。
この背景には、住宅取得者であるファミリー層の減少に加え、取得費用の急騰があります。
建築資材や人件費の高騰、そして土地価格の上昇といった要因が重なり、コロナ前から2023年までに住宅の建築費用は15%以上も上昇しました。
さらに住宅ローン金利の上昇や実質賃金の伸び悩みもあり、家計が住宅購入に充てられる資金は増えていないのが現状です。
いわば、「土地代の高騰」「建築コスト増」「賃金停滞」「金利上昇」という四重苦が戸建て市場を直撃し、従来のように戸建て住宅が売れにくい時代に入っています。
参考:今月のグラフ(2024年3月)64年ぶりの歴史的な低水準となった注文住宅の新設着工
参考:大和ハウス、積水ハウス、住友林業が米国事業で火花!巨額買収でトップに躍り出た積水に「2つの落とし穴」
大和ハウスの事業ポートフォリオの転換
こうした需給環境の変化を受けて、大和ハウスは戸建て分野における守勢からの脱却を図っています。具体的には、事業ポートフォリオの転換です。
個人向け戸建て住宅の建築・販売に偏重せず、集合住宅(賃貸アパートや分譲マンション)や、商業施設・物流施設の開発、都市再開発事業などへ経営資源をシフトしています。
例えば、同社は国内外で物流施設開発「Dプロジェクト」を推進し、大型倉庫や配送センターを積極的に建設してきました。
さらに近年では、日本国内において大規模データセンター群の開発計画も進めるなど、新たな不動産ニーズに応える領域に踏み出しています。
戸建て住宅一辺倒から脱却し、多角化経営によって安定成長を図る狙いがあるのです。
また、この転換は働き方改革による施工体制の変化も一因でしょう。
従来の「モーレツ営業」で戸建てを売りまくるモデルが難しくなる中、より計画的・効率的に利益を生む事業へのシフトは必然とも言えます。
参考:The Daiwa House Group's Business Operations and Strengths
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大和ハウスの米国市場への進出と多角化
大和ハウスが次なる成長エンジンと位置付けるのが海外事業、特に米国市場です。
日本市場が縮小する一方で、米国は人口増加と経済規模の大きさから住宅需要の底堅さが期待できます。
実際、米国の年間住宅着工件数は直近で約140万戸規模とされ、日本の約82万戸(2023年)を大きく上回っています。
こうした市場の大きさと成長性に着目し、大和ハウスは2011年に米国住宅事業へ再参入しました。
参考:https://housing-news.build-app.jp/article/30201/
参考:https://www.nahb.org/news-and-economics/press-releases/2025/01/housing-starts-end-2024-on-an-up-note
戸建て住宅ビルダーの買収と育成
具体的な展開として、同社は米国で戸建て住宅ビルダーの買収と育成を進めています。
2017年に米バージニア州の住宅会社スタンレー・マーティン社を買収したのを皮切りに、合計3社のハウスビルダーを傘下に収め、現在は米国12州で戸建て住宅開発を展開しています。
その成果もあって、2023年度には米国で6,568戸の戸建て住宅を供給し、同事業の売上高は4,721億円に達しました。
さらに同社は2026年度までに海外事業の売上高1兆円を目標に掲げており、その約73%を米国で稼ぐ計画です。
戸建て供給戸数も年1万戸超に引き上げるべく、生産体制の強化や部材のグループ購買によるコスト削減など効率化策を進めています。
参考:大手ハウスメーカーの海外展開。日本の住宅がなぜアメリカで売れるのか?【住宅業界NEWS】
米大手企業との共同事業で物流インフラの取り込み
大和ハウスの米国戦略は単に戸建て住宅の販売戸数を伸ばすことに留まりません。事業の多角化がキーワードです。
2024年には、米国で初となる物流施設の開発プロジェクト「ブルーリッジ・コマースセンター」(テキサス州ヒューストン近郊、平屋建て物流倉庫5棟、延床約12.5万㎡)に着手しました。
これは米大手デベロッパーのトラメル・クローカンパニー社との共同事業で、大和ハウスグループの現地法人(ダイワハウス・テキサス)を通じて推進しています。
物流施設開発への進出は、EC市場拡大などで需要が高まる物流インフラ分野を取り込み、収益源を多様化する狙いがあります。
参考:「Blue Ridge Commerce Center(ブルーリッジコマースセンター)」着工
賃貸住宅市場への参入
さらに、賃貸住宅(マルチファミリー)市場への参入も見逃せません。
大和ハウスは2024年11月、米国の大手賃貸住宅デベロッパーであるアライアンス・レジデンシャル社(本社:アリゾナ州)に35%出資し、同社を持分法適用関連会社としました。
アライアンス社は全米16州で賃貸住宅の開発・建設を手掛ける業界最大級の企業であり、この提携によって大和ハウスは米国の賃貸住宅分野に本格的に足場を築いたことになります。
これにより、米国では「戸建て住宅販売」+「賃貸住宅開発」+「物流施設開発」という三本柱で事業を多角化させ、景気変動や市場ニーズの変化に強い体制を整えつつあります。
また将来的には、商業施設やデータセンター開発への参画も視野に入れており、グローバル展開の中で培ったノウハウを活かして収益機会を拡大していく方針です。
このように、国内では縮小する住宅市場を補うため、米国での事業ポートフォリオを拡充している点が大和ハウスの戦略の肝と言えます。
参考:アライアンス・レジデンシャル社の持分取得に関するお知らせ
参考:Daiwa House Industry : Nov. 19, 2024 Presentation Summary
他社の米国市場への動き
他の日本勢も米国市場に注力しており、積水ハウスは2024年に約7,000億円を投じて米大手MDC社を買収し、一挙に全米5位の戸建てビルダーグループとなりました。
住友林業も従来から米国で1万戸規模の住宅供給を行うなど、ハウスメーカー各社の主戦場が米国に移りつつあるのです。
大和ハウスはそうした中でも、単なる戸建て競争に留まらず多角化路線で攻める点で独自色を出しており、「三刀流経営」(ハウスメーカー+ゼネコン+デベロッパーの顔を持つ)の強みを海外でも発揮しようとしています。
参考:大和ハウス、積水ハウス、住友林業が米国事業で火花!巨額買収でトップに躍り出た積水に「2つの落とし穴」
総合力で勝負する大和ハウス
大和ハウスの戦略転換から、建設業界の企業が学ぶべき教訓は事業モデルの柔軟な変革でしょう。
人口減による市場縮小が避けられない業界では、従来の主力事業に固執するリスクが高まっています。
大和ハウスは早い段階から住宅以外の分野に事業領域を広げてきましたが、それが近年の業績拡大に寄与すると同時に、財務面では開発投資に伴う資産負担など「多角化の代償」も経験しました。
例えば、大規模な不動産開発を行えば一時的に在庫や負債が膨らみ、資産回転率の低下や利益率へのプレッシャーがかかります。
それでもなお多角化を推進するのは、長期的な成長と安定を優先しているからに他なりません。
企業としては、自社の強みを活かせる新分野(例えば海外展開や異業種連携)を開拓し、リスクを分散しながら持続的成長モデルを模索することが求められます。
大和ハウスの例は「住宅一本足打法」から脱却し、「総合力で勝負する」ことの重要性を示していると言えます。
参考:【大和ハウスvs積水ハウス】積水が初の売上高4兆円で宿敵・大和を猛追も、不動産開発と米国で待ち受ける“茨の道”
まとめ
大和ハウスの「戸建て事業脱却」と「米国事業多角化」は、日本の住宅産業が直面する構造的課題に対する大胆な解答と言えます。
国内市場の先細りが避けられない中、同社は持ち前の開拓精神で新天地に活路を見出しつつあります。
この戦略転換によって、今後の建設業界はさらに複合的でグローバルな様相を強めるでしょう。
ゆえに今後は業界内での提携や再編も加速し、経営資源を結集して新市場へ乗り出す動きも増えるかもしれません。
最後に、大和ハウスの挑戦は業界の未来への一つの指針と言えます。
「共に創る。共に生きる。」という企業理念のもと、事業領域を広げ変化に挑む姿勢は、成熟産業と言われる住宅業界にもまだ成長の余地があることを示しています。
その動向を注視しつつ、自らのキャリアや企業戦略に活かしていくことが、これからの時代を生き抜く上で大切になるでしょう。
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