目次
日本の建設業界でいま、新たな産学官連携プロジェクトが始動しようとしています。
それが「スマートビルディング共創機構」です。
デジタル技術の進歩や脱炭素ニーズの高まりにより、「スマートビルディング」という次世代型の建物コンセプトが注目される中、その普及促進を担う母体団体が誕生します。
参考:ipa.go.jp
本稿では、その設立背景や目的、業界への影響、そして将来の人材需要に至るまで、最新ニュースを踏まえて深掘りします。
建設業界の最前線で何が起きているのか、そして建設業界で働いている人にとってどんなチャンスが広がるのかを解説していきます。
スマートビルディング共創機構とは何か
スマートビルディング共創機構は、スマートビルの普及促進を目的に2025年5月に設立予定の非営利団体です。
参考:taisei.co.jp
建設業界のみならずITや設備分野など幅広い企業・団体が参加し、業界の垣根を越えた協力体制を構築します。
スマートビルディングの概念と新たな潮流
「スマートビルディング」とは、省エネ性能や快適性を高度なデジタル技術で実現した次世代型のビルを指します。
単体の建物内で完結せず街区全体での最適化を図る点が特徴で、IoTやAIを活用した環境制御により利用者の利便性と持続可能性を両立します。
近年この概念が注目されており、エネルギー効率やウェルビーイング(快適で健康的な環境)の向上など、社会にもたらす影響が大きいと期待されています。
建築物が「ただの箱」ではなく能動的に価値を提供する存在へと進化しており、建設業界でも変革の潮流が生まれています。
スマートビルディング共創機構の発足と参加企業
スマートビルディング共創機構(以下、共創機構)は2024年1月から準備会が始まり、115社を超える企業・団体が参加して発起人会が組織されました。
参考:taisei.co.jp
2025年3月27日の「スマートビルディング・カンファレンス2025」で一般社団法人として設立することが発表され、4月2日に正式登記予定です。
発起人には大成建設、竹中工務店、東急建設など建設大手から、ソフトバンクや日立製作所といったICT企業、セコムやパナソニック(エレクトリックワークス社)など設備・セキュリティ分野、森ビルのようなデベロッパーまで多岐にわたる企業が名を連ねています。
まさに産学官オールジャパンでスマートビル普及に取り組むためのプラットフォームといえるでしょう。参加企業は今後も募集され、設立総会は2025年5月に開催予定です。
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設立に至った背景
共創機構設立の背景には、政府の掲げるSociety 5.0のビジョンと、建設業界が直面する課題があります。
個社の取り組みだけでは限界がある中、産業全体でデジタル技術を導入しスマートビルを推進する必要性が高まったのです。
Society 5.0と国のスマートビル戦略
日本政府は未来社会像であるSociety 5.0の一環として、建物分野におけるスマート化を重要施策に位置付けました。
高度なテクノロジーで人間中心の社会を実現するSociety 5.0において、次世代の建物空間を創出するスマートビルのアーキテクチャ推進が掲げられています。
参考:ipa.go.jp
しかし、スマートビル推進は一企業だけでは困難であり、業界横断の枠組みが必要とされました。
そこでIPA(情報処理推進機構)が2019年にスマートビル関連の活動を開始し、2021年度には民間提案を募る「インキュベーションラボ」でスマートビルがテーマ採択、議論を経てプロジェクト化されています。
このように国策としての後押しと産業界からの要請が合致し、スマートビル共創機構の構想へと繋がりました。
建設業界の課題と普及促進の必要性
建設業界では人口減による技能労働者不足や、気候変動への対応、脱炭素社会の実現など喫緊の課題に直面しています。
従来の延長線上ではこれらの問題に対応しきれず、デジタル技術の活用やエネルギー効率化・再生可能エネルギー導入が不可欠となりました。
またスマートビルの実現には建築設計・施工だけでなく、IoTやAIを含むICT分野、エネルギーマネジメントなど多岐にわたる専門知見の連携が求められます。
こうした背景から、異分野を結集して協力できる場として共創機構の設立準備会が2024年に発足。
当初23社でスタートした準備会は急速に参加企業を増やし100社超の規模に拡大しました。業界全体で課題解決とスマートビル普及に取り組む母体が必要であり、これが共創機構誕生の根底にある動機です。
スマートビルディング共創機構の目的と役割
共創機構はデータ活用による新産業の創出と、スマートビル関連技術・人材の基盤整備を目的としています。
業種の壁を超えた協調領域を築き、技術標準化や人材育成など業界全体の底上げを図る役割を担います。
データ利活用による新産業創出
共創機構の掲げる第一の目的は、建物に関わるデータ活用を促進して新たな産業を創出し、国際競争力を高めることです。
例えばビルの利用状況データやエネルギー消費データを共有・分析することで、新サービスやビジネスモデルが生まれる土壌を作ります。
蓄積されたビル情報を建物間で連携させれば、街全体の生産性向上や人々のウェルビーイング向上に貢献でき、スマートシティの構成要素ともなり得ます。
共創機構はこのようなデータ駆動型のイノベーションを牽引し、建設分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させることを狙っています。
協調領域の整備と技術標準化・人材育成
スマートビルに関する技術や運用の標準化も重要な目的の一つです。
業界横断でデータ共有やシステム連携を円滑にする協調領域を整備し、互換性のある技術基盤や評価基準(認証制度など)の確立を目指します。
参考:ipa.go.jp
特定の企業や業界だけに有利にならない中立的な立場でリーダーシップを発揮し、業界全体のルールメイキングを行っていく方針です。
また、スマートビルを支える人材育成も重要な役割です。
必要な専門スキルの定義や教育機会の提供を通じて、世界に通用する人材を育てることが掲げられています。
このように共創機構は、「場づくり(協調領域)」「ルールづくり(標準化)」「人づくり(育成)」を三本柱として、スマートビル普及の基盤整備に取り組みます。
スマートビルディング共創機構のビジョン(目指す姿)
共創機構は将来像として「スマートビルが当たり前の社会」の実現を掲げています。
産学官の多様なステークホルダーが垣根を越えて参画するエコシステムを構築し、オープンイノベーションで継続的に新技術・サービスを生み出すことを目指します。
業種の垣根を超えたオープンなエコシステム
共創機構のビジョンの核心は、多様な主体による共創環境づくりです。
所有者、デベロッパー、インフラ事業者、ゼネコン・サブコン(施工者)、ビル管理者、官公庁・大学、サービス提供者、利用者といったあらゆる関係者を横につなぎ、集合知を結集してスマートビルの価値向上に繋げます。
データやシステムを共有するデジタル完結型のエコシステムを形成し、透明性・公平性を担保しながら新たな発想や技術が次々と生まれる場を作ることが目標です。
従来の業界の壁を取り払うことで、スタートアップや異業種も参加しやすい環境を整え、業界全体の活性化と新規参入を促します。
このオープンな協創環境こそが、スマートビル普及に欠かせない原動力になると考えられています。
スマートビルが当たり前になる未来
共創機構は「スマートビルが当たり前の世界」を将来ビジョンに掲げています。
具体的には、スマートビルの協調領域や標準が確立され、多くの建物で当たり前に高度なデジタル管理や省エネ運用が行われている社会です。
それにより建物やサービスの価値が継続的に向上し、利用者に新たな価値を提供し続けることが可能になります。
さらに日本発の取り組みを世界へ波及させ、国際的にもリードする存在となることを目指しています。
そのために官民・学術の連携も深め、必要な規制緩和や支援策を政府に提言していく考えです。
また将来的には、スマートビルの認証制度やガイドラインの整備、普及啓発活動の展開などを通じて市場全体を底上げしていくでしょう。
共創機構のビジョンは単なる技術導入に留まらず、「建物を変革して社会課題を解決する」という高い志を示しています。
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スマートビル普及がもたらす建設業界への影響
スマートビルの普及は建設業界の業務プロセスやビジネスに大きな変革をもたらします。
設計・施工から維持管理まで一貫したデジタル化が進み、生産性向上やコスト削減、脱炭素の推進につながると期待されています。
ここでは技術面と経営面のメリットを整理します。
BIM・DXによる施工プロセスの効率化
スマートビル実現の過程で、建設プロセスのデジタル変革(DX)は不可欠です。
具体的にはBIM(ビルディング情報モデリング)やデジタルツイン技術の活用により、設計段階から施工、運用に至るまで情報が一元管理され、手戻りの削減や工程の最適化が進みます。
AIによる施工計画の最適化やロボット施工なども現場の生産性を飛躍的に高めるでしょう。またクラウドを介したリアルタイムな情報共有で現場とオフィスの連携が密接になり、意思決定の迅速化が図れます。
これらにより省人化や工期短縮、品質向上といった効果が期待できます。
さらに建物完成後もデジタルツインで設備の状態を常時モニタリングし、予防保全を行うことでメンテナンスコストの低減と信頼性向上が可能となります。
脱炭素・安全性強化による付加価値向上
スマートビルは環境性能と利用者満足度の両立にも寄与します。
高効率な空調制御や照明システム、自動制御による省エネ運転でエネルギー消費を削減し、CO₂排出量の削減やカーボンニュートラル建築の実現に近づきます。
再生可能エネルギー(太陽光発電や蓄電池)の導入やエネルギーマネジメントシステム(EMS)による最適制御も進むでしょう。
またセンサーやIoTによってリアルタイムに環境や人の動きを検知し、安全性・快適性を高めることもできます。
例えば人流データを活用した避難誘導や、室内環境データに基づく空調自動調整で居住者の健康と快適性(ウェルビーイング)をサポートする取り組みも可能です。
こうしたスマート化による付加価値向上により建物の資産価値は高まり、テナント誘致や物件評価にもプラスに働きます。
結果として建設業界全体に新たな付加価値ビジネスが広がり、社会的にも持続可能な都市づくりに貢献することになります。
例:
導入技術・施策 | 期待される効果・メリット |
---|---|
BIM活用・デジタルツイン | 設計・施工プロセスの効率化(手戻り削減)、施工管理の高度化、生産性向上 |
AIによる設備制御最適化 | エネルギー消費の最小化、運用コスト削減、予知保全でダウンタイム減少 |
IoTセンサーによるモニタリング | リアルタイム安全管理(災害時迅速対応)、利用者の快適性向上(環境自動調整) |
省エネ設備・再生エネ導入 | 電力使用量削減によるCO₂排出削減、カーボンニュートラルへの寄与 |
スマートセキュリティ | 入退館管理の効率化、セキュリティ強化(不審者検知)、安心・安全な利用環境 |
スマートビル時代に求められる人材と今後の展望
スマートビルの広がりに伴い、建設業界で求められる人材像も変化しています。
特に 電気工事士 や 設備施工管理技士 といった専門資格を持つ技術者には、新たなスキル習得と活躍の場が増えるでしょう。
また共創機構の今後の活動を通じて、業界全体の発展シナリオが描かれています。
スマートビル普及で高まる専門技術者ニーズ
建設現場ではこれまで以上に電気・設備系の技術者の重要性が増しています。
IoT機器や自動制御システムの設置・調整には高度な電気工事スキルが必要であり、スマートビル化の進展に伴って電気工事士の需要は一層高まるでしょう。
実際、近年はスマートビル対応の求人も登場しており、応募条件に「第一種電気工事士」や「1級電気工事施工管理技士」「建築設備士」などの資格保有が歓迎されるケースもあります。
これはスマートビルに精通した人材が不足していることの裏返しでもあります。
また、建築設備(空調・給排水・電気設備等)の施工管理技士にとっても、IoTやBMS(ビル管理システム)に関する知識が新たな必須スキルになりつつあります。
スマートビル時代には、図面と現場を管理する従来型の施工管理に加えて、IT・データ活用能力や他業種との協調力を備えた人材が求められます。
共創機構でも「必要な専門性の定義」や「教育機会の提供」によって次世代の人材育成に注力するとしており、今後こうした人材不足への対応が進む見込みです。
業界でキャリアを積む人にとっては、デジタル技術や資格取得に積極的に取り組むことがキャリアアップの鍵となるでしょう。
まとめ
スマートビルディング共創機構の設立は、建設業界におけるデジタル変革と協調の時代の幕開けと言えます。
国を挙げたSociety 5.0の流れに呼応し、従来は縦割りだった建築・設備・IT・運用の各分野が手を携えることで、建物の価値創造プロセスそのものを革新する試みが始まります。
人口減少や環境問題など業界が抱える課題に対し、スマートビルは省人化や省エネ、快適性向上という解決策を提示し、共創機構はその実現を後押しするプラットフォームとなるでしょう。
実務面ではBIMやIoTの活用が普及し、生産性向上やコスト低減が図られると同時に、電気工事士や設備施工管理技士といった専門技術者にはデジタルスキルを発揮する新たな活躍の場が広がります。
業界全体で見れば、人材育成から標準化まで俯瞰する共創機構の存在により、日本の建設分野は国際競争力を高め、スマートビルが当たり前に存在する社会への歩みを加速させることが期待されます。
今後は共創機構の具体的な活動や成果物(ガイドラインや認証制度など)にも注目が集まるでしょう。
最前線の動きを把握しつつ、自身もスキルアップを図ることで、これからの建設キャリアに大きなチャンスを掴むことができるはずです。
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